「留学史(16)」(2022年10月25日)

東インドインランダーの短所は山ほどある。だがそのうちのどれかひとつでも、東インド
インランダーしか持っていなくて、他の民族にそれを持っている者はひとりもいない性質
が本当に存在するだろうか?数千万人いるオランダ人のだれかひとりくらいは下に書かれ
てあるような性質を周囲の人間から批判されているのではないのだろうか。

いわく、東インド原住民は愚かな民族であり、理非曲直を弁別できず、礼節を知らず、物
を盗み、他人を欺き裏切るのを当たり前にしている信用できない連中だ。無恥・不潔・腐
敗・怠惰・不敬であり、高貴さを知らず、批判や反省がなく、怖がりで嘘つきで、イニシ
アティブがなく、歩くときは足音を立てず、たいへんな女好きだができた子供の養育は投
げ出し、学習も学校も嫌い、米の飯ばかり食い、偉いさんになりたがり、貯蓄をしないで
金を浪費し、報酬が少ないやら何やらと苦情し、何もしないうちから前払いや前金をねだ
り、借金は返済しようとしないのに自分が借金するのは大好きで、もしもレヘントのよう
な偉いさんになったら砂糖農園にたかりにやって来るわ、腐敗行為の金を大喜びでかき集
めるわ、下層階級の同胞から搾り取るわ・・・・

愛国心を持たず、同胞意識や連帯心がなく、理想を抱かず、人間としての尊いものごとを
成し遂げようという考えもなく、向上意欲を持たない惰弱な精神力に包まれて、上の者の
言いなりに従う奴隷根性の持ち主がかれらだ。ヨーロッパ人は生活の向上を目指して勤労
の努力を払うのに対し、かれらはあらゆる努力を払って勤労しないことを目指し、勤労の
量が少ないことをわが身の偉大さにして誇る。


東インドに仕事をしに来たオランダ人の中に、ことさらにインランダーを見下し軽蔑し、
同等の人間扱いをしないで帰国していくインランダーヘイターがいる。かれらヘイターの
多くは本国で十分な生計を立てることが困難なために故国を離れて一定期間環境の劣悪な
植民地で働き、その後の生活が楽に送れるほどたくさんの資金を蓄えて故国へ帰った者た
ちで、老後の年金に支えられたポストコロニアル暮らしを愉しんでいる境遇にあるとアブ
ドゥル・リファイは書いた。

かれらの精神は植民地主義に満ち満ちている。オランダ人植民地主義者とはつまるところ
レーシストなのであり、オランダ本国では実現不可能なことを東インドで実現させようと
努め、意のままにならない部分をすべてインランダーのせいにした。

造園設計人は東インドのクーリーが午前6時から午後6時まで日給25セントで働くのを
嫌がる怠け者ばかりだと苦情し、医師はインランダーが手術されるのを怖がり、与えられ
る薬を飲もうとせず、病気の予防に気を回さない合理性に欠けた連中だと批判し、精神病
院の医師はインランダーの頭の中には女とナニすることしか入っていないとコメントし、
新聞界で働いた者はオランダの植民地政策に反対する新聞をすべて発禁処分にして関係者
を街路樹に吊るしてしまうか、あるいはボーフェンディグル送りにしろと書いた。

ほとんどのオランダ人が東インドで接触するインランダーは住んだ家の世話をさせる下男
下女、庭師、料理人、運転手、勤め先で雑用するオフィスボーイなどの非知識層であり、
行政機構の一画を占めている貴族層や東インド有数の知識層の人間と会ったこともなけれ
ば話を交わしたこともない。かれらのイメージの中に作られるインランダーの姿がどのよ
うなものになるかは、そこから想像が付くに違いあるまい。


歴代の東インド総督はオランダ式植民地主義原理によって作り上げられた統治構造を、そ
の原理の精神そのままに運営した。総督ばかりか、東インドの統治運営に関わった人間は
その原理の精神を内面に持つことを強いられ、自分をそうすることで業績を高め、出世し
て繁栄した。それができなかったムルタトゥリのような人間が悲惨な境遇に落ちることに
なった。[ 続く ]