「甘くて苦いジャワ砂糖(7)」(2022年11月04日)

毎年製糖工場が作業期を始める前に工場前庭が地元民に開放されて、工場の表一帯がお祭
り場所になる。毎晩夜市が開かれ、工場前庭には舞台が設けられてワヤンクリ・クトプラ
ッ演劇・ダンドゥッ音楽などが演じられる。一週間から二週間続くこの祭事はcembengan
と呼ばれている。

ジャワの製糖工場はほとんどすべてがチェンベガンの儀式を行っている。植民地時代に工
場が建てられたころから続けられてきた伝統催事だ。これから始まるこの作業期に豊かな
生産の成果があがり、しかも期間中を安全無事故でつつがなく終えるよう霊界に保護と協
力を願うのである。

工場にとってたいへん重要なチェンベガンの儀式が終われば、お楽しみ編に移行する。慰
安の祝宴が開かれて種々の芸能が演じられるのだ。このお楽しみ編が製糖工場に何の関係
も持っていない近隣住民たちに開放される。工場側はそれを通して近隣住民との地縁関係
を打ち立て、同じコミュニティ内での共存関係を築こうと考えている。チェンベガンは近
隣住民にとっての楽しいお祭りなのだから。

チェンベガン儀式では、まず工場の地霊にかかわりを持つと信じられている墓にお参りを
する。タシッマドゥ工場はマンクヌゴロ家の7カ所の墓地がお参りの対象だ。地霊や他の
悪霊が工場の稼働に障りをもたらさないようその墓の霊にお願いをするのである。そのあ
と、農園からもっとも出来の良い雄サトウキビと雌サトウキビならびにその付添い者たち
が採取される。

工場の中には、雄サトウキビと雌サトウキビを新郎新婦よろしく掲げて近隣一円を練り歩
き、近隣一帯にお祭り気分を盛り上げるところもある。タシッマドゥ製糖工場はそれをし
ないが、生贄の水牛9頭が屠られてその頭が重要な機械に置かれる。また諸霊を慰めるた
めにたくさんの供物も要所要所に置かれる。供物が置かれる時も、呪文が唱えられて祈り
が捧げられる。

更には地縁コミュニティの協調と一体感をもっと深めるために、プサントレンで学んでい
るサントリを招いて、イスラム式の祈祷も行われる。イスラム教徒の工場従業員にとって
は、それによって安心の度合いが深まるにちがいあるまい。

それらの祈祷儀式が万端とり行われてから、翌朝夫婦のオスとメスのサトウキビが破砕機
に入れられる。夫婦の和合と期待される一家の繁栄がそのようにして象徴されるのである。
破砕機が動き始める時が作業期の開始の合図なのだ。


地元のひとびとにとってチェンベガンは楽しい祭りの日々であり、夜ごとに砂糖工場周辺
で繰り広げられる夜市と芸能を楽しむためにみんながやってくる。その夜市を目指して、
招かれもしない路上物売りたちも砂糖工場周辺に集まって来る。なにしろ、例年の稼ぎ時
なのだから。

東ジャワ州ルマジャンにあるジャティロト製糖工場のチェンベガンでは、工場前庭から周
辺の道路脇や空き地までが物売りで埋まる。子供狙いの遊戯道具も夜市に欠かせないもの
だ。下は子供を座らせてスイッチを入れると上下する自動車や馬の乗り物から、上は観覧
車のような大型のものまでが夜市を賑わす。ジャティロト製糖工場のチェンベガンにはシ
ドアルジョやスラバヤ、グルシッなど遠方からも商売人がやってくる。

ジャティロト製糖工場は作業期が始まると6千5百人の季節労働者を働かせる。そのうち
の4千人が畑での刈り取り、2千5百人が工場作業に別れる。畑で刈り取られたサトウキ
ビは1ヘクタール当たり10台のトラックが荷物を工場に運び込む。それらの季節労働者
への報酬は最低賃金が適用される。[ 続く ]