「甘くて苦いジャワ砂糖(10)」(2022年11月09日)

2008年5月7日、ヨグヤカルタ特別州バントゥル県バグンタパン郡バトゥレッノ村に
広がるサトウキビ畑でジャイミンさん35歳は、人間の背丈の3倍近いサトウキビを刈り
取っていた。刈り取ったものを並べて大きな束にし、縛る。それをトラックの所まで運ん
で行くのだ。サトウキビを満載したトラックはマドゥキスモ製糖工場に向かって走り出す。

ジャイミンが手に入れる賃金は1クインタル当たり2千5百ルピア。
「仕事が手早く進みゃあ、一日3万ルピアになることもある。でもたいてい2万から2万
5千ルピアくらいだね。そこから毎日1万ルピアを貯めて、故郷の女房のところに持って
帰りますよ。家に帰るのはひと月に一回だ。」

ジャイミンはバントゥルの地元民ではない。かれはスラゲン県の住民で、サトウキビ刈り
取りの出稼ぎに来ているのだ。1万から1万5千ルピアの収入は食費とタバコ代などに消
える。故郷に持ち帰るのは25万ルピア。

かれは故郷の隣人と誘い合わせてサトウキビ収穫作業の出稼ぎに家を離れる。故郷には借
地の水田がある。今回は田植えをしたあとで出稼ぎに出てきた。水田の世話をしているだ
けでは食っていけないのだ。水田所有者からの報酬は収穫分配方式だが、かれの取り分は
もみ米総収穫量のうちの1クインタルだけ。それで妻と3人の子供を養っていけるわけが
ない。


ジャイミンと隣人はもう10年くらい、サトウキビ収穫地を求めてさまよう渡り鳥暮らし
を続けている。ふたりはそれぞれの収穫地で、収穫作業監督者の家で寝るのだ。

マドゥキスモ製糖工場のこの年の作業期では、564万クインタルのサトウキビ投入が計
画されていた。作業期は5月3日に始まり、170日間続く。一日当たりの投入予定量は
3.5万クインタル、目標レンデメンは7.6パーセント。製品の目標生産量は41万ク
インタル。ヨグヤ特別州と中部ジャワ州南部地域の年間砂糖消費量は45〜50万クイン
タルにのぼっているため、地元地方の自給達成はまだできない。

ヨグヤ特別州の労働力が決して不足しているわけではない。賃金の低さが労働力をサトウ
キビ収穫作業に呼び集めないだけの話なのだ。おかげで出稼ぎ者がその穴埋めをする。
マドゥキスモ製糖工場に集められるサトウキビは州内からのものがメインだが、中部ジャ
ワ州からも集められる。州内分は5千4百Haあって、ヘクタール当たり650クインタル
の生産性だ。

マドゥキスモ製糖工場は自社農園を持っていない。全量を近隣の栽培農民から買い上げて
いる。もちろん契約を結んで農民の経済性を保証してやり、製糖のための原料確保に努め
ているのだが、サトウキビ栽培面積が縮小傾向にあって、工場側の不安の種になっている。
2006年に1,600Haあったバントゥル県のサトウキビ栽培面積は2007年に1,
540Haに減った。一部の村で村有地を農民に貸し、農民がそこでサトウキビを栽培して
生計を立て、村役場も借地料から公共用途資金を得ていたのだが、中央政府のプロジェク
トのために60Haが売却されたのである。工場関係者にとって、不安の種は尽きないよう
だ。


東ジャワ州マディウン県ウグ郡にPG Kanigoroがある。国有第11ヌサンタラ農園会社の
傘下にあるこのカニゴロ製糖工場は1894年にスラバヤの農業商業工業銀行が設立した。
言うまでもなくオランダ資本だ。操業が開始されたのは1897年だった。[ 続く ]