「甘くて苦いジャワ砂糖(終)」(2022年11月18日) 非合法輸入ではないが、このようなことも起こった。 2000年以降の砂糖クライシスの数年間、Kesempitan adalah kesempatan.を実践する 者たちが現れた。動乱を野望実現のチャンスと見なす者たちだ。輸入クオータが激増し、 登録輸入者の輸入活動が活発化した。登録輸入者に資金を融通して輸入させた砂糖を引き 取り、相場を大きく超える利益を載せて流通網に流している人間がいたことを行政は後に なって知る。市価の変動が自然発生的に起こっていたのではなかったのだ。 中部ジャワとジャカルタを縄張りにしてそれを行っていたのはスマランの大手ディストリ ビュータで、ラジャワリヌサンタラインドネシアと第9ヌサンタラ農園会社の大手出荷先 だった。スラバヤの大手ディストリビュータのひとりも東ジャワの流通網を握って似たよ うなことを行った。スラバヤの別のディストリビュータは東ジャワの一部エリアと西ジャ ワの市場を握った。メダンでもふたりの人間が同じようなことをした。片手間に砂糖ビジ ネスに関わっていた者の中にも、砂糖品薄というこの動乱の中で同じようなことをして砂 糖ビジネス業界に乗り出して来た者も現れたらしい。登録輸入者に資金を融通し、高品質 で廉価な外国産砂糖を輸入させて自分が引き取れば、特定地域の流通業者を手なづけるの にそれほどの苦労もいらなかっただろうと想像される。 大規模にそれを行っていた8人の人間の所業が明らかになったとき、行政はかれらを8人 のサムライと呼んだ。国内の砂糖市場はもっと規模の小さい者まで含めて数十人の人間に 振り回されていたのである。行政は8人のサムライの身動きを封じるために密議をこらし たようだが、国内生産の回復で輸入クオータが減少するとサムライたちも動乱の鎮静に従 っておのずと刀を納めたらしく、この後日談は見当たらない。 たとえ密輸入されたものであろうとも、安く品質の良い砂糖が国内市場に流れるのは消費 者の歓迎するところだった。コンパス紙R&Dが2004年に行ったアンケート調査によ れば、635人の回答者のうちで砂糖購入の際に決定要因になるファクターは価格である と答えた者が41.9%を占めた。 価格 41.9% 色 25.0% 国産/輸入 15.8% 細かさ・粗さ 8.2% 外国産の砂糖は必ず何かが国産品より優れているのだ。密輸入品は民衆の、中でもマッシ ブな低階層にとってのお助けの神だったと言えるだろう。政府の企図している国家経営と 大多数国民の欲求の間に発生するこのような利害コンフリクトは、この国で決して珍しい ものではないように見える。 それはともかくとして、外国産砂糖が国内市場に大量に流されると、ジャワの製糖工場か らの出荷が停滞する。流通業者の眼前に外国産砂糖が山積みされたなら、流通業者は製糖 工場に製品を取りに行かなくなる。製糖工場は製品の出荷が細まって倉庫がいっぱいにな ってくると、生産量を調整せざるを得なくなる。サトウキビ生産農民からの収穫品受入れ も先細りになっていく。農民はこんなリスクに耐えられないから、サトウキビをやめて次 からコメやトウモロコシを栽培しようと考える。製糖工場にとってはダブルパンチになっ てしまうのである。 昔あれほど甘かったジャワの砂糖は、植民地支配者が総力をあげてその甘さを吸い取った あと、インドネシア人がその全インフラを取り上げてわが物にしたというのに、製糖工場 から出来上がって来る砂糖の味のほろ苦さ!![ 完 ]