「グラメラ(1)」(2022年11月21日)

砂糖を意味するインドネシア語のgulaはサンスクリット語源の言葉であり、元々サンスク
リット語ではモラセスを意味していた。つまり砂糖を取り出す前の、液体状態のサトウキ
ビ汁のことだったようだ。それをムラユ人が語彙の中に取り込んだ。多分加工技術の伝来
と同期していたのではあるまいか。そしてグラという言葉は固体になったサトウキビ汁の
意味に変化しつつそのままジャワやスンダなどヌサンタラの各地に広まった。ヌサンタラ
のgula tebu成立過程をまるで図解しているような情報ではあるまいか。トゥブとはサト
ウキビのことだ。

西暦紀元元年後の最初の数百年間に、いやもしかしたらもっと遠い過去の時代に、スマト
ラの西岸や東岸にやってきたインド人がサトウキビの加工技術をもたらしたことがそこか
ら大いに推測されるのである。サトウキビを指すムラユ語トゥブは語源がマレーポリネシ
ア語系の言葉であるため、サトウキビ自体はもっと古くからムラユの地に自生していた可
能性が感じられる。

だからこそ、ヌサンタラ地域におけるグラトゥブの話はヨーロッパ人来航後のストーリー
の中にばかり登場し、華人や西洋人が作ったということばかりが述べられ、それよりもっ
と昔にヌサンタラの土着民はムラユ人を含めてグラトゥブを知らなかったのだろうかとい
う不審をわたしに抱かせる元凶になっていた。この現象が意味しているものはいったい何
なのだろうか?


ヌサンタラのひとびとは、グラトゥブとは別に、ヤシ類の花から採れる甘い液体niraを原
料にしてグラを作ることも行ってきた。ニラという言葉は元来、パームヤシの花から採れ
る液体を指すもので、インド語のニーラが摂取されたものだそうだ。ということは、ニラ
から作られるグラであるグラニラもインド人によって技術伝承がなされた可能性が考えら
れる。

それらの事実は、グラトゥブから伝統製法で作られる製品と、グラニラから伝統製法で作
られる製品がたいへん似通っていることが裏付けを与えてくれるような気がする。素材を
どちらにしようとも、その製造工程と製品はまるで双子の姉妹のように見えるのである。


現代インドネシアでグラは素材によって三つに区分されているようだ。トゥブを素材にす
るグラトゥブ、ニラを素材にするグラニラ、ビートを素材にするグラビッの三つだ。とこ
ろが、ニラを素材にするものについて区分名称の語義が曖昧であるためにその三区分の内
容が整然と分かれていないように思われるのである。

たとえばイ_ア語ウィキペディアのグラの解説には、グラトゥブ・グラビッと並んでgula 
merahという言葉が記されていて、グラメラとはニラから作られるグラのことであると定
義付けられている。KBBIにあるグラメラの語義を調べると、gula kelapa, gula jawa
となっており、gula jawaの定義はgula dari nira, nyiur, atau arenとなっているから、
なるほどグラメラはグラニラのことなのだとその三段論法から察することができる。

見やすいように列挙してみよう。更に一応、他の言葉もここに抜き書きしておく。
gula merah:gula kelapa, gula jawa
gula jawa:gula dari nira, nyiur, atau aren
gula aren:gula dari nira enau
gula kelapa:gula jawa
という相互関係になっている。読者もそろそろこの辺りで私のように頭が痛くなってくる
だろう。クラパから作られたものがグラジャワで、グラメラもクラパから作られたものと
いう定義付けになっているように読めるこの謎解きは、グラジャワがニラから作られる砂
糖であるという定義をキーにしてカテゴリーの位階を変えてやることで落ち着くようだ。
グラメラはその別称であるということになる。[ 続く ]