「グラメラ(5)」(2022年11月25日)

タングラン市青少年刑務所の周囲に植えられた百本を超えるココナツヤシの木からニラを
採集している者がいる。そのヤシの木は法務人権省の敷地に植えられたものであるため、
もちろん役所が持ち主ということになる。だからそこで行われているニラの採取は決して
無断の行為ではないのだ。

ファルリアン・タンプボロンとブルハヌディン・タンプボロンの兄弟は敷地管理担当に話
を持ち掛け、ひと月間に20本のヤシの木からニラを採取する許可をもらい、一本当たり
1万ルピアを月々納めることで了承を得た。

ふたりは1989年に一旗挙げようと北スマトラからタングランに出てきて、二輪ベンケ
ル商売を始めた。ところが十年以上コツコツと働いたものの、事業は破産してしまった。
次に何の旗を挙げようかと思案していたころ、街中にそびえている多数のココナツヤシの
並びが目に入った。故郷でニラを採っていたころの思い出がよみがえる。ニラを採ってト
ゥアッでも作ろうか?いや、これを商売にしてみたらどうだろうか?

タングランの町中にバタッ人のラポが多いことにふたりは気付いていた。そしてあらため
て調査を行った結果、たしかにラポやバタッ人ワルンがたくさんあることが明らかになっ
た。市場は存在していたのだ。2003年からふたりはタングランでヤシの木に登るよう
になった。


ヤシ類の花から採集した液体であるニラは発酵プロセスを経てバタッ人のアルコール飲料
であるトゥアッになるが、トゥアッにしない場合は加熱してグラメラが作られる。製品が
どちらになろうが、ニラ採取のプロセスは同じなのだ。タンプボロン兄弟の行っている日
々の作業を垣間見ることにしよう。

ヤシの花が咲いた後にココナツの実が付くところをマンガルと言う。3カ月くらい経過し
てそろそろ実が付き始めるころのマンガルにナイフで傷をつけてやるのが、ニラ採取プロ
セスのスタートだ。マンガルがまだ若いとニラはたいして採れない。ところが実が付いて
しまうと、もうニラ採取はできなくなる。

傷をつけると言っても、ゴムの木の樹脂を採るようなやり方でなく、マンガルの先端を5
センチほど切り取るのだ。そのあと毎日、朝と夕方の二回、マンガルの先端を1センチく
らい切り取るのを三日間続ける。三日目ごろから、マンガルの先端にニラが滲み出してく
るようになる。

一本の木の頂上で一二個のマンガルにその処理を行い、周囲に生えているヤシの葉で処理
痕を覆ってやる。毎日朝夕同じことを繰り返してから、三日目にマンガルをまとめてきつ
く縛り、頭を下向きに垂らしてやる。その頭から垂れてくる水滴をプラスチック容器で受
けるのだ。いいマンガルはひと月間ニラを出し続けるが、よくないものは二週間くらいで
干上がってしまう。

いいマンガルが得られるのは樹齢6歳を超えた木で、葉が艶を帯び、下向きに生えている
ものだそうだ。一本の木では、マンガルは多くて二個だけ処理するようにしなければなら
ない。それ以上たくさんマンガルを処理してニラを受けてやっても、得られる量はたいし
て変わらないどころか通算して得られる総量は少なくなりかねず、品質すら劣ったものに
なるのだから。


兄弟は毎日朝8時から10時までの間、20本のヤシの木に登って容器に溜まったニラを
下におろし、マンガルに空の容器を設置する。同じ仕事が夕方また繰り返される。一日に
登るのは20本が限度だ。それ以上は体力が続かないとふたりは言う。

一本の木でニラの生産が30日間続いたとしても、その間に一日当たりの生産量は変化す
る。最初はピークに向かって上昇し、ピークを過ぎると下降する。生産量の安定を図るた
めに、ふたりは二週間ごとに新しい木に登ってマンガルに処理を施してやらなければなら
ない。そのローテーション方式によって、かれらの一日当たりニラ採取量は25〜30リ
ッターで安定している。[ 続く ]