「グラメラ(8)」(2022年11月30日)

スギヨ製グラスムッはいろいろな長所を持っていることが判明した。粉末状よりも使いや
すく、しかも日持ちがする。粉末状だと室温でせいぜいひと月が保存可能期間であり、そ
れを超えると湿気を吸って溶け、しかも嫌な臭いが発生する。スギヨ製グラスムッは一年
以上の室温保存が可能なのだ。

おまけに栄養価が白砂糖よりも優れている。農業省州試験場で検査した結果、タンパク質
・脂肪・カルシウム・硫黄分・鉄分がより豊富であることが判明した。甘味の感覚が白砂
糖と異なっていて、消費者からはウエダンジャヘにたいへんよく合う、というコメントを
もらっているそうだ。

そうは言っても、新製品が市場で高い評価を得ることなど容易にできるものではない。ま
してや一個人企業の製品が全国に認められるまでには、長い歳月とたゆまぬ努力が必要に
なる。かれはパサルの商人や近隣の商店にまず使ってもらうことから始めた。無料試供品
をばらまかなければならない。赤字がかさんで奥さんが癇癪玉を破裂させたこともあった
らしい。

使ってくれたひとたちの評価を謙虚に受け止めて、かれは製品の改良に努めた。人間は良
い物を欲しがるのが道理だ。製品が良くなってくるにつれて、注文が入るようになった。
地元でマーケティングを続けていれば、ヨグヤカルタ市場は制覇できただろう。ところが
かれは一足飛びに全国制覇に向かった。2003年にジャカルタ進出を試みたのである。
そして運命の女神はかれに微笑んだのだ。

続々と入って来る注文にかれは往生してしまった。かれは近隣の小規模グラジャワ生産者
に声をかけた。一緒にグラスムッを作らないか?22人がそれに応じた。23人の生産連
合体ができたわけだ。形式的には外注ということになるのだろう。そして全員が繁栄する
ことになった。この事業の粗利率は30%になるそうだ。

2008年には百人を超える一大連合になった。そのころ、平均して一日2百キロの注文
が入っていた。それは平均値であり、各注文量はまちまちで、一件で数百キロの注文が入
って来ることもある。輸出注文が来ればトンの単位になるのが普通だ。そのころ日本向け
に2トンを輸出した実績がある。


スンブルルジュキのグラスムッ事業は既に二代目に引き継がれて、現在はかれのお嬢さん
が指揮を執っている。昨今の生産量は月産6トンにのぼる。

2000年代にはニュージーランド・オーストラリア・米国・ヨーロッパなどに輸出して
いたが、煩わしい問題が多いために直接輸出はやめたと現当主は語っている。輸出したい
人がいれば、国内取引をするだけにしている。

製品は大半がジャカルタとスラバヤに出荷される。味覚付きのグラスムッもバリエーショ
ンが増えた。味覚を付けないオリジナルは工場出し値がキロ当たり2.6万ルピア、味付
きのものはキロ当たり4.5万から6万ルピアまで種々の価格になっているそうだ。


中部ジャワ州南部で西ジャワ州に境を接しているバニュマス県。中部ジャワと西ジャワと
いうのは、単なる地理上での境界にとどまらず、ジャワ人とスンダ人という種族文化の境
界線にもなっている。南部ではスンダ勢力がジャワ側に浸透してジャワ文化地域の中にジ
ャワとスンダのポリカルチャー地域が生まれたために、バニュマスは中部ジャワ人にとっ
て特殊な地方に位置付けられ、Banyumasanというバニュマス風を指す言葉が作られた。

一方、北部のチルボン〜インドラマユ地方では、元々スンダ人の土地であったところにジ
ャワ人勢力が進出して来て、スンダ地域の中にスンダとジャワのポリカルチャー地域がで
きあがった。このような実態を見る限り、ジャワの優位に対するスンダの劣勢という一面
的なものの見方が当を得ているようには思われない。[ 続く ]