「グラメラ(9)」(2022年12月01日)

2013年に政府中小事業コペラシ省はバニュマス県を全国最大のグラクラパ生産県に認
定した。バニュマスのグラクラパは甘さに定評があり、品質も優れている。次のデータが
バニュマス県のグラクラパ生産に関するものだ。
生産者数 27,112世帯
生産従事者数 98,215人
家内生産加工所数 31,416軒
総生産量 72,109トン/年
ヤシ作付面積 17,814ヘクタール
ヤシ総本数 170万本
単位当たり生産量 14,000キロ/ヘクタール
粉末・顆粒状製品輸出 670トン/月
成型状製品輸出 150トン/月
輸出先 中東・オランダ・韓国・米国・日本・シンガポール・カナダ

バニュマス県の高原部に生えるヤシの木から得られるニラはスクロースが72%に達し、
他地方のものより甘味が強い。ヤシ林はたいてい海岸部に設けられることが多いのだが、
海岸部に生えたヤシの中には、塩分がニラに混じるものも少なくない。バニュマスのグラ
クラパが全国一だと言うのは、単に生産量が多いということだけでなく、品質もナンバー
ワンの名を辱めないものになっているからだ。バニュマス県では、Cilongok, Pekuncen, 
Lumbir, Ajibarang, Wangon, Kebasen, Somagedeの七郡がグラクラパの生産センターにな
っている。


バニュマスでは昔からグラメラ作りが民衆の生計を営むための活動のひとつになっていた。
マジャパヒッ王国時代からそうだったと語る地元民もいる。つまりニラクラパを採集して
ポンコルと呼ばれる長い竹筒に集め、それをグラメラ生産者に売り渡すという仕事を職業
にする民衆が昔から大勢いたということだ。2006年には32,570人のバニュマス
県人がニラ採集を職業にしていた。2014年にはそれが2万7千人という数字に落ちて
いる。

バニュマス県チロゴッ郡バトゥアンテンのワルソさん40歳は毎朝6時から10時まで、
60本のヤシの木に登り、処理したマンガルに溜まったニラを下ろしてくる。それで15
〜17キロのグラメラが作られる。

そのあと、14時から18時まで、また同じことが繰り返される。かれは毎日120本の
ヤシの木に登っていることになるわけだ。20年間、毎日それが繰り返されてきた。一日
でも間を開けると、マンガルに障害が起こってニラの質と量が悪くなるのだと採集者たち
は言う。

木登りは長い竹の棒を立てかけ、その竹に足の親指が入るだけの穴を開けておき、その竹
を伝って二十メートルにも達するヤシの木に登るのである。数カ月前に転落事故が二件起
こり、そのうちひとりは死亡した。それでもワルソは平常心でヤシの木に登る。自分も落
ちる時は落ちるだろう。そして運が悪ければ死ぬだろう。それが、自分の営むべきこの世
の生なのだとかれは考えている。


チロゴッ郡スニャラグ村クジュブッ部落で先祖代々ヤシの木に登ってニラを採集する仕事
をしてきた家族は、今や行政の指導でグラメラ作りまで行うところが増えた。採れた一次
産品をそのまま売り渡すよりも、加工して付加価値を付けるほうが収入に差が出る。

しかし製品供給が過剰になれば、値崩れが起こって元も子もなくなる可能性がある。行政
は悪い結果が出ないことを確信してその方向に住民を進ませているのだ。それもこれも、
グラスムッのおかげなのである。グラスムッ自体が高級品の価格帯にあり、しかも需要は
まだまだ伸び続けている。ニラ採集者にグラスムッを作らせるかぎり、悪い結果に襲われ
ることは当面考えられないというのが行政の判断だったようだ。

県庁のその方針によって、県下2万7千人のニラクラパ採集者たちの6割が今ではグラメ
ラを、特にグラスムッを作るようになった。2014年の市況で、グラスムッはキロ当た
り1万2千ルピアの生産者価格になっている。粉末を成形したタイプは8千ルピアにしか
ならない。[ 続く ]