「グラメラ(19)」(2022年12月16日)

コラン人の長老が物語るには、パンテトゥアッの仕事の成功の秘訣はマヤンの根本を優し
く可愛がってやることに尽きるのだそうだ。優しく愛情をこめて撫でさすり、愛おしんで
やる。ニラ採取のために茎に傷をつけるのに先立って、tewaあるいはdendeと呼ばれる愛
撫の作法が二週間ほど続けられる。テワをするために木に登った採集者は、まるでいとし
子に子守唄でも聞かせるかのように、哀愁を帯びた声で歌いながら愛撫するのだ。そのロ
マンチックな行為が、コラン人の優しい性格を形成したのではないかという話が世間一般
に語られている。

大人のコラン人はまず例外なく、アレンのマヤンの状態を熟知している。どの花房が膨ら
みそうか、ニラをたくさん出すのはどれか、採取の処理はどれに行うのが一番よいのか。
対象が決まると、それに向けてテワが行われ、最終的に大自然の豊饒さの分け前にあずか
るのである。


マンガライ地方ではこのニラアレンから作られたグラメラをゴラコランと呼ぶのが一般的
である一方、マンガライ地方の外ではgula manggaraiと呼ばれてきた。グラマンガライと
いう呼称はゴラコランが地元で作られるグラメラと異なるものとして扱われてきたことを
示しているようだ。

マンガライ地方では1970年代ごろまで、生活の中での甘味素材はゴラコランで代表さ
れていた。そこに工業製品の白砂糖が入って来るようになって、ゴラコランは民衆生活の
中から没落して行った。

1990年代には、ゴラコランはもうどこのパサルでもその姿をほとんど見かけなくなっ
た。しかしコラン人は相変わらずアレンの木に登ってニラを採集している。かれらは砂糖
からアルコール飲料に生産をシフトさせたのだ。トゥアッやソピの市場は確実に存在して
いる。東ヌサトゥンガラ州の各地で催される慣習催事では、開会に際して全員が一斉にト
ゥアッやソピを飲むことで幕が開く。住民の日常生活や社交生活にもアルコール飲料は欠
かせないものになっている。

ところが2010年の少し前ごろから、警察がアルコール飲料の取り締まりを活発化させ
はじめた。太古から社会の伝統飲料として作られてきたものが、いきなり酒税を納めてい
ない密造酒だと言われたのだから、コラン人も困ってしまった。いざこざはいろいろに起
こったようだが、今では法治下の商品として世の中に流通しているようだ。


ヤシ類のニラはクラパとアレンからだけ採れるのではない。lontarと呼ばれるヤシもある。
別名siwalanとも呼ばれるこのロンタルヤシは植生が南アジアから東南アジア一帯にかけ
て分布していて、葉がたいへん特徴的な巨大な扇型をしているのでその姿を愛好するひと
も少なくない。昔まだ紙がなかった時代、乾燥させたロンタルヤシの葉が紙の代わりに使
われていた。ヌサンタラの古代文書が今日まで継承されたことへのロンタル葉の貢献はた
いへん大きいものだったと言えるにちがいない。

ロンタルの葉に書かれた古文書は今でもたくさん残っている。特にバリ島では公的な書物
や文書の他に、たくさんの旧家にも私的な文書が多数保存されていて、およそ5万5千綴
じくらいはあるだろうと見積もられている。公開されているものについては、シガラジャ
のキルティヤ博物館が最多の2,417綴じを収集しており、次いでデンパサルの州文化
局ドキュメンテーションセンターに2,274綴じの蔵書が集められている。[ 続く ]