「グラメラ(終)」(2022年12月20日)

ロンタルはジャワ島にもたくさんあって、古代ジャワ文学の保存を担った。言うまでもな
く、ジャワ人もニラロンタルでグラメラを作る。東ジャワ州ラモガン県パチラン郡パチラ
ン村住民カサンさん35歳は今日もチュマタンの木に登る。ロンタルの木はこの地方でチ
ュマタンと呼ばれている。

数本の太い竹筒を腰に縛ったカサンは早朝の朝もやの中を森に入り、チュマタンに登る。
高さ25メートルもありそうな木の上でかれはよく熟れた実を探し、その端を切り取る。
すると切り取られたところから汁が滴り落ちるから、竹筒を置いてそれを受ける。12時
間ほどで1リッターのニラが採れる。カサンはニラのことをlegenと呼んだ。

この白色のラゲンは良い香りがし、そのまま飲むこともできる。だがカサンはそれを家に
持ち帰ってグラメラやシロップにする。カサンはそれを家の台所に持ち帰るだけだ。台所
では妻がそれを受け取って後のすべての処理を行う。

グラメラにするには、一度沸騰させてやればよい。炉の火にかけておよそ一時間、かき混
ぜながら沸騰させる。沸騰して色が茶色になったら、火から下ろしてプラスチック容器に
小分けする。およそ半時間でラゲンは冷えて固まり、商品になる。あとはパサルに持って
行って売ればよい。

ジュロと呼ばれるシロップにする場合は、半時間ほど煮るだけでよい。そこで止めれば白
色の甘くて濃いシロップになるが、色が茶色になってしまったらグラメラにしなければ仕
方がない。


東ジャワ州北岸地域のトゥバン県やグルシッ県では何千もの家庭がラゲンを採集してグラ
メラを作っている。一日のグラメラ生産量は一家庭当たり10キロに達する。ロンタルか
ら作られるジャワ産グラメラの愛好者はジャワ島外にもたくさんいるし、マレーシアへの
ジャワ人出稼ぎ者も口にし慣れた味覚を懐かしむのが普通だ。

長年マレーシアに住んで働いているジャワ人の中に、グラメラ送付依頼を故郷に送るのを
欠かさないひとびとが少なからずいる。ラゲンから作られたグラメラもジュロも数ヵ月間
日持ちがするので、届いたら使えなくなっていたということは起こらないそうだ。白砂糖
では得られない、懐かしい故郷の味をかれらは堪能する。そのとき、ほんのしばらくであ
っても、望郷の熱い想いが癒されるのだろう。

何百年も前から東ジャワでラゲン採集の伝統が続けられてきた。農民たちは赤土を耕作し
て食糧を自給するかたわら、換金性商品の生産を行ってきた。グラメラは遠い昔から自給
型農業社会に換金経済の窓を開けて、その二本立てをかれらの生きる道にしてきたのであ
る。グラメラはヌサンタラの農民たちと共に、この先も延々と生き続けるにちがいあるま
い。[ 完 ]