「ボランバリン(前)」(2022年12月23日)

bolang-balingはKBBIにbaling-balingがその語義だと記されている。バリンバリンと
は何か?風で回るものをそれは意味している。風見鶏もそうだし、おもちゃの風車も、ド
ンキホーテが突進した巨大な風車の回転する部分も、バリンバリンだ。ところが飛行機の
プロペラもバリンバリンなのである。ドラえもんのインドネシア語版になじみのある方は
お解りだろう。タケコプターはbaling-baling bambuと翻訳されている。


中部ジャワのスマランを中心にしてその一帯で名前の知られた食べ物の中にボランバリン
が入っている。ただし、どこでも誰にでも簡単に作れる食べ物だから、スマランに結び付
けられる必然性がないとわたしは感じている。元々、華人が持ち込んできたものであり、
それがヌサンタラの各地で作られるようになった。

どうやらスマランに結び付けられているのは食べ物そのものでなくてボランバリンという
名称らしい。その名称がスマランで起こり、それがヌサンタラに広まったことから、名前
の発祥地としてスマランに関連付けられるようになったのではあるまいか?


アンドレアス・マルヨト氏が語った、食べ物の名前になっている繰り返し言葉のひとつで
あるこのボランバリンとは、要するに中華揚げパンなのである。中華揚げパンにもさまざ
まな種類と形態があるが、ボランバリンは小サイズのコッペパン型やボール型あるいは四
角型などで、砂糖またはゴマが外皮に振りかけられている。ボランバリンの作り方はこの
ようなものだそうだ。
1.まず温湯に砂糖を溶かし、イーストを加える。泡が出たら卵と揚げ油を加えて均等に
混ぜる。
2.別の器で小麦粉と塩を混ぜならし、1.を加えて混ぜ合わせ、二倍に膨れるまで待つ。
3.テーブル上に粉を撒いてからドウを置いてガスを抜き、成形して10〜20分くらい
置く。こうすると中にガスの空洞部分ができる。もしも中を稠密にしたい場合は、すぐに
油で揚げればよい。
4.成形はお好みの形に作ればよい。四角い棒状にしてから1〜1.5センチ幅に切った
り、小さくコッペパン型やコロッケ型に丸めても良い。
5.あとは天ぷら風に揚げるだけ。温度は高くならないようにして、表面を柔らかく仕上
げるのがコツらしい。


このボランバリンはodadingという別名を持っている。レミ・シラド氏によれば、それは
オランダ語に由来しているのだが、インドネシアで食べ物の名称として誤解の果てに定着
したものだそうだ。

植民地時代にバンドンで、プリブミがこの食べ物を家で作り、子供に売り歩かせることが
行われていた。誰の専売特許ということでもなかっただろう。なにしろ、名前すらなかっ
たのだ。

バンドンに住む、あるオランダ人の家庭に幼児がいて、家の表を通るプリブミの少年が食
べ物を売り歩いているのを見て母親にねだった。「ママ、あれを買って。」

母親は表に出て少年を呼び止め、商品を見せるように言った。少年は荷担ぎ棒に吊り下げ
られた箱を下ろし、商品を覆っているバナナ葉をどけて商品を見せた。そこにあったのは
小麦粉を丸めて油で揚げただけの食べ物だった。母親は幼児に言った。Oh, dat ding?

「あんな物(が欲しいの)?」と言ったのだが、少年はその言葉をしっかりと耳に刻みこ
んだ。そしてカンプンに戻ると、家の者や隣近所のひとびとにその体験を自慢げに語った。
「この食べ物の名前が分かったよ。オランダ人のニョニャが確かにこれをオダディンと言
ったんだ。」

それ以来、その食べ物の販売者はそれをオダディンと呼ぶようになり、当然消費者もそれ
に倣うようになって、世の中にその食べ物の名称として定着した。これがオダディンの語
源に関するレミ・シラド説である。[ 続く ]