「ジュナン(終)」(2023年02月15日)

ソロの町で毎年2月17日にフェスティバルジュナンが催されている。たいてい数日前か
らスタートして、17日にクライマックスを迎える。ソロ市の6郡51町が総出で17種
類のジュナンを1万7千タキル作り、会場を訪れるひと、通りがかるひとに無料で振る舞
うのである。どうして17なのか?

カルタスロにあった王宮がソロ村に移されたのが2月17日だった。1745年に成立し
たスラカルタ王国の創立記念日がそれなのである。ジュナンは人間の生、つまり一生に深
く関わっている、とフェスティバルジュナン財団会長は語る。

生まれてから死ぬまでのさまざまな儀礼や祝にジュナンは欠かせない食べ物になっている。
さまざまな素材が溶け合ってひとつのものに変わるジュナンは天地万物の調和を象徴して
いる。さまざまな人間がひとつの社会を構成するとき、社会はジュナンのようにさまざま
な個性の溶け合った共同体になるはずだ。そこに調和が出現するのである。それぞれの分
子が密接にからみ合い、強固なハーモニーが社会を構成するなら、その社会はより優れた
ものになるように思われる。

2014年のフェスティバルでは、スラカルタ王宮の厨房で30年間王家の儀式と家族の
食事用にジュナンを作り続けてきたニャイルラ・スクランギさん(当時73歳)の、王宮
式ジュナン作りデモンストレーションが公開された。

ニャイルラさんは老齢のために、王宮の厨房にいたころのような活発な動きはもう見られ
ない。ところがジュナン作りを始めたとたん、かの女の身体はまるで若い娘のように、活
発に動いた。火の上で煮立っているジュナンをかき混ぜる手は動きを止めないのだ。「ジ
ュナンを作るときだけは、自分が若返ったような気がします。力が湧いてきて、身体を動
かしていても疲れた気がしないんですよ。」

ニャイルラとお仲間のもっと若いふたりの女性はその日午前7時から10時まで、三時間
をかけて何種類ものジュナンを作り、取材に訪れた報道関係者たちに振る舞った。


ジャワ人にとってのジュナンは祈りや願いを造物主に届ける場における供物であると同時
に、社会構成員の一体性や連帯の感情を培う食べ物にもなった。ひとびとは生活環境内で
行われるゴトンロヨンの力仕事を行ったあと、全員に配られるジュナンスムスムをうちそ
ろって食べるのである。

町内の草取りやどぶ掃除、あるいは公園や空き地の整地などを住民が無償で行い、終わっ
たあとでジュナンを食べてエネルギーとスタミナを回復させる。社会的地位が示す貴賤貧
富の差はそこに出現しない。ある会社の社長と別の会社の雑用係が隣人という地縁によっ
て結びついている平等社会なのだ。かれら全員が同じ場で一皿のジュナンを与えられ、そ
れを同じように一緒にすすったからと言って、ある者が卑しめられ、またある者は過分な
扱いをされているというような感覚は生じない。

遠い昔から王国の伝統儀式の供物として使われ、儀式が終わったあとで催される王族貴族
から一般庶民に至るまで上下すべてのひとびとが共に集う祝宴の中で、ジュナンはそこに
いる全員を同格にし、社会の一体感連帯感を育ませてきた。まるでジュナンの粘りが共同
体の中にいるジャワ人ひとりひとりの生活を繋ぎ合わせるかのように。[ 完 ]