「バッソは国民食(1)」(2023年02月20日)

baksoがインドネシアの肉団子である。このバッソあるいはバソという名称のインドネシ
アの食べ物は肉のミンチや魚のすり身とタピオカ粉で作られる。手で丸めて団子のように
するのが昔からの伝統だから、肉団子の形になる。できあがった団子はたいてい全体が均
一の灰色をしている。

この名称はもちろん中国語に由来していて、イ_ア語ウィキペディアはミンチ肉を意味し
ていると説明しているのだが、それとは別にバッは豚肉、ソは小さく丸い物を指すという
説もあり、また一方で「肉酥」が福建語でバッソと発音されるために、語源はこれだとい
う説もネット内にある。しかし、台湾の肉酥や魚酥は肉団子でなくて固形の菓子であり、
それを見てミンチ肉を意識の中に持つのはかなり困難な気がする。ひょっとしたら肉蘇か
もしれないが、語意がミンチ肉に近寄れたとしても団子とはかけ離れているからバッソへ
の連想が困難になる。このような、単に言葉だけを関連付ける説はどうも現物を見ていな
い印象があって、どうして両方を見ることができないのだろうか、という人間不信をもた
らしかねない。

別の文化では別物であったものをその文化の人間が持ち込んできて、別の土地で違う品物
の名称にしてしまうという流れがそこから憶測されるわけで、いったい何が愉しくてそん
なことをするのかという不信へとつながっていくのである。

ちなみに中国語の肉団子は肉丸と書かれて、その福建語発音はbak-uanになる。インドネ
シアでbakwan(バッワン)と呼ばれる食べ物は種々の食材を厚い衣で包んで深い油で揚げ
たものだ。インドネシアのバッワンが肉団子と関りを持っているとは、わたしにはとても
思えないのである。


バッソには新鮮な牛肉のミンチが使われる。ミンチは肌理細やかなほどよい。それにすり
おろしたニンニク、コショウ粉末、塩と水を混ぜる。鶏卵を溶いて加えると、もっと豪華
な味になる。そこにキャッサバ粉あるいはサゴ粉をすこしずつ混ぜ込んで練り合わせ、水
気のないドウにする。

それができあがれば手で丸め、鍋で沸騰させた熱湯の中に入れて浮き上がるのを待つ。浮
き上がったのをすくい取って皿に置けば、ハイできあがり。これをそのままブンブにつけ
て食べるもよし、あるいはラーメンやナシゴレン、チャップチャイなどに加えてもよし、
はたまたよく売られているバソ屋方式のバソスープにしてもよし、もうひとひねりして洋
式スープやスパゲティに足し込んでもよし、という万能選手がこれだ。

インドネシアのバッソはたっぷりのスープの中に肉団子が入り、時にはそこに麺やビーフ
ン、揚げ豆腐・シュウマイ・モヤシ・茹で卵や鶏肉炒めなどが添えられて十分な食事がで
きるものもあるとはいえ、基本は肉団子をたっぷりのスープと一緒に食べるものという印
象が強い。中国の肉団子料理でそのスタイルはマイノリティのようにわたしには思われる
のだが、どうだろうか?素材が似ていても供される作法が大きく異なっている点を斟酌す
るなら、バッソが中国のXXだというものの見方は考えものであるかもしれない。

インドネシア風バソスープを愉しみたい方は、こうやって汁を作ればよい。
肉と骨を粗く挽き、たっぷりの水を沸騰させて30分間煮る。別鍋に少量の油を敷き、ニ
ンニク・赤バワン・コショウを香りが立つまで炒める。煮込んだスープに炒めたブンブと
ナツメグとカルダモンを一緒に混ぜ、10分くらい後にセロリのコマ切れを入れてひと煮
立てさせればできあがる。

バッソには、大別して次の三種類が市場で販売されているとコンパス紙は説明している。
1.bakso daging
牛肉・鶏肉・魚肉・エビ・カニなどを主素材にして粉で練り合わせたものだ。主素材が9
割、粉が1割という比率が品質的に最高とされている。ミンチ肉には脂が混じらないのが
ベストであり、脂が混じるとテクスチャーが粗くなって食感が低下する。

2.bakso urat
ウラッは牛のすじ肉のこと。バッソダギンにすじ肉が混ぜられて少し粗目の食感と旨味の
混じった特徴的な味覚が楽しめる。バッソダギンのバリエーションとして作り出されたも
のだそうだ。[ 続く ]