「バッソは国民食(2)」(2023年02月21日)

3.bakso aci
アチはタピオカ粉のことで、バッソダギンから肉類を全面的に抜いたものと思えばよい。
粉にブンブを加えて丸く練り上げたものをバッソダギンの代わりに使って料理にする。た
いてい、やたらと辛いスープに他の食べ物と一緒になって供される。

同じように作られた物にcilokがあるが、チロッの方がバソアチより小さい傾向にあるよ
うだ。チロッはaci dicolokの短縮語であり、タピオカ団子を串刺しにして食べる作法か
ら命名された。


商業用に生産販売されているバッソには往々にして、モチモチ感を高めるためにトリポリ
リン酸ナトリウムという薬品が使われている。これは食品用の安全性が承認されたものな
ので使用は合法なのだそうだが、安全面から食品への使用が禁止されているボラクスやフ
ォルマリンなどの防腐剤を使う非合法生産者もいて、昔からそういう悪徳生産者摘発のニ
ュースが流れると、巷に何万人もいるトゥカンバソの商売が干上がることが繰り返されて
きた。トゥカンバソの敵はそればかりでなく、愉快犯が流す噂話もある。かれらは何の根
拠もなく「どこそこの店のバソはネズミ肉を使っている」「イノシシ肉を使っている」な
どと言いだし、世間が騒ぐのを待ち受けるのだ。

これは飛行機乗客の「オレは爆弾を持っている」話と似たようなものであり、本質は狼少
年心理なのだろう。狼少年はオオカミに食われ、爆弾乗客は搭乗拒否という罰が下るのだ
が、ネズミ肉イノシシ肉の愉快犯に罰が下ったのを耳にした記憶がないから、正義必勝悪
者必滅因果応報説は当てにしないほうがよいだろう。


バッソはインドネシアの国民食のひとつと言っても過言でない印象だ。シーズン性がなく、
愛好者は性別も年齢差も無関係で、だれにでも食べやすいから、だれでもいつでも食べる
ことのできる食品であり、至るところでワルンバソが見つかり、またトゥカンバソの屋台
が至るところに出るので、どこでも食べることができる。

そんな食べ物であるにもかかわらず、人口に膾炙しているバッソのメッカがある。東ジャ
ワ州マランと中部ジャワ州ソロの地名がバッソによくくっついているのだ。ソロのバッソ
はウォノギリで栄えたトゥカンバソの子孫がソロに移り、ソロで家伝の商売を始めたこと
からソロのバソ屋が増加してメッカ視される結果に至ったのだという話もある。


西ジャワ州バンドンもバッソが好まれている町だ。バンドン市内にバッソランプメラとい
う、人気のあるワルンバソがある。そのオーナーのユスディ・ゴザリ氏が2007年にワ
ルンバソ事業を開始する前に、フィーシビリティスタディを行った。インターネットで調
べたところ、市内のワルンバソは150軒を超えていたそうだ。かれはバッソトマトとい
う新種のバッソを発明した。

生トマトのヘタを落として中身をこそぎ取り、そこにバソを詰めて茹でるのである。トマ
トは直径4センチくらいの、熟れすぎておらずまた未熟でもないものが使われる。トマト
の皮肉は茹でても壊れず、その甘酸っぱい味覚がバソと独特の調和を醸し出す。この店の
メニューは他にも、すじ肉、卵入り、チーズ、骨髄などのバッソが勢ぞろいしている。バ
ッソマランは透明スープ、バッソソロは濁り汁という特徴があるのだが、バッソランプメ
ラはその中間を行くスープになっている。


バンドンの別のワルンではお得意メニューが団子型バッソでなくて四角いブロック型やハ
ート形のバソになっている。更に揚げバソや焼きバソのバリエーションもあって、客は好
奇心をくすぐられるという寸法だ。ハート形のバソはbakso loveと呼ばれている。焼きバ
ソは串にさしてサテのようにし、ピーナツのブンブとキュウリのアチャルで食べる。別椀
で温かいバソスープが供されるから、普通のバッソと遜色ない。

かれらトゥカンバソが言うには、バッソ自体はどのワルンも大差ないそうだ。かれらが差
を付けるのに努める対象はスープなのである。どの店もスープを他店と違うものにしよう
と努力するので、店の特徴がスープに表れるという話だ。[ 続く ]