「ヌサンタラのドゥリアン(7)」(2023年03月09日)

リアウ州カンパルにはdurian omehがある。オメとは黄金の意味だ。オメと呼ばれるのは
黄色い果肉が輝いているからだ。味は甘くて旨味があり、粘りのある食感が愛好者を引き
付けている。

果実は卵型であまり大きくない。重さは3キロくらい。トゲは尖っておらず、持ちやすい。
このオメが市場に出てくることは年に一度くらいだ。小収穫のときは木に果実が生ったら
そのすべてに買い手が付くから、生産者から消費者に直行する。市場に流される物はない。
大収穫のときにやっと注文の付かないものが得られるから、少ないながらもそれが市場に
出回る。

黄金の名前が付けられるだけあって、値段は高い。普通のドリアンが1個1〜2.5万ル
ピアで売られているのに、オメは1個4〜5万ルピアの価格になっている。


カンパルでは11〜12月が大収穫のシーズンだ。収穫と言っても、この地のドリアンは
樹上完熟ものが落ちてくるのを人間が拾い集めるのである。樹の持ち主はドリアンルント
ゥをひたすら待つ。夜中も寝ずの番をする。のんびり寝ていたのでは、夜中に落ちた果実
は一つ残らず朝までに消滅してしまうからだ。

バラムジャヤ村クウォン部落のアルカムさん61歳は12月初のある夜、自分の所有する
ドリアン林で不寝番に就いていた。かれはドリアンの樹を6本持っている。昔はオメの樹
も一本あったのだが、落雷を受けて倒れてしまった。

ドリアン結実シーズンには、ドリアン林の見張りが日課になる。週末には家族が交代で夜
と昼の当番に就くのである。週日でも、夜の見張りは欠かせない。ドリアン林に作られた
小屋の外では焚火が燃やされ、見張り番は蚊に刺されながらドリアンの果実が地面に落ち
るドボッという音を待って耳を凝らす。焚火は、この林を番人が見張っていることを不心
得者に知らせる意味をも持っていて、朝になるまで火が消えてはならないのだ。

落ちたドリアンを狙う者たちにも、見張り番と正面切って闘ってまでドリアンを奪おうと
いう気はないようで、見張り番の隙を突いて持ち去ろうとしても、見張り番が近付いてく
ればすぐに逃げ出すらしい。もしも見張り番に見つかれば警察沙汰になるのが普通だそう
だから、暴力警察の悪名も犯罪抑止に効果があると言えるにちがいあるまい。


正子の刻にほんの少し前、小屋の裏手のほうでドボッという音が続けざまに三つ聞こえた。
「あれは隣のドリアン林の境に近い大きい木の方角だ。」アルカムは懐中電灯を手にする
とそう言い残して、急いで小屋の裏に消えた。しばらくしてから、アルカムの晴れ晴れと
した顔が現れた。中くらいの果実を三個手にしている。

「ドリアンシーズンになると、ここに住むわれわれにはこんな暮らしがもう伝統になって
います。林の中で夜を明かすんですよ。落ちたドリアンをそのままにしておくと、必ずだ
れかが持っていきます。朝になってから探しに行っても、見つけるのは不可能ですから。」
アルカムは取材に来たコンパス紙記者にそう語った。


アルカムのドリアン林は収穫期に一本当たりおよそ百個の果実を生産する。一個1万2千
ルピアとして計算すれば、およそ2カ月間で7百万ルピアの収入になる。そんな金の生る
樹ドリアンにも青田買いのシステムがある。

ハリラヤの祝祭や子供の割礼祝、子供の入学費用などの大きい出費が必要になったとき、
農民は借金をする。この地方では借金の抵当にドリアンの先物果実が使われる。結実シー
ズンから完全に外れていれば、金を貸した人間にも果実を何個回収できるかわからないか
ら、平年分を上限にして個数を交渉する。たまたま次の収穫が大当たりになれば、持ち主
にも十分な取り分が得られてお得な借金をしたことになる。

ところがドリアンの花が咲き始めたころに金を借りると、貸主は花の数をかぞえて抵当を
決めるから、樹の持ち主は収穫期を一回、完全に逃すことになりかねない。[ 続く ]