「ヌサンタラのドゥリアン(9)」(2023年03月13日)

ボゴール原産のmatahari種が全国随一と言われて高い人気を得ている。マタハリは果肉が
明るい黄色で甘く美味く粘りがあり、後味が口中に残る。マタハリがまったく国内市場に
出回らないのは、地元で穫れたものが即地元で消費されるからだ。

1980年代初期に、このマタハリがボゴールのランチャマヤに姿を現した。ランチャマ
ヤで大型クダイドリアンを営むオモさんの店の陳列台の中央にそれが置かれた。店主が自
信を持って勧める最高級品のひとつであることをそれが表している。その当時、たいてい
のドリアン樹はまだ種別名称を持っていなかった。このマタハリ種も名前のないまま世の
中に登場したのである。その果実が愛好者たちの間で高評価を得た。

たいていのドリアン樹は一回のシーズンに百個くらいの果実を作るが、そのときのマタハ
リの樹は数十個しか作らなかったようで、常に薄目の供給が続いた。その需給関係のアン
バランスによって果実の評判はいやが上にも高まり、価格もそれに同調した。

このマタハリ種の評判が、果樹の収集と研究開発のメッカになっているムカルサリ観光園
の研究開発部門長の興味を引いた。かれは店主オモさんの協力を得て、マタハリの樹を探
したのである。というのも、オモさん自身もその樹を自分の目で見ているわけではなく、
仲買人が持ってくる果実を受け取っているだけだったのだから。

その樹が生えている場所はランチャマヤ地域の外で、ボゴール市北部に位置するチマパル
村の、ジャゴラウィ自動車道からあまり離れていないところだった。持ち主は果実農家で
あり、自分の地所に種々の果樹が入り乱れて生えている中に高さ25メートルほどのドリ
アンの樹があった。樹の根の位置から上を見上げても、周囲の果樹が入り乱れていて、果
実が生っているのかどうかを見ることができない。開発部門長はその樹が間違いなくマタ
ハリであることを確認するために、果樹が落ちてくるのを数日間待った。

待望の完熟ドリアンが数個手に入ったので、一番良さそうなものをかれは割り開いた。輝
くような黄色い果肉が最初に目に入った。まるで太陽のようだとかれは思った。果肉は厚
く、弾力性があり、テクスチャーはバターのように優しく、そして繊維の感触のないプリ
ンのような舌触りだった。味は甘くて美味く、舌の根に後味がいつまでも残った。落ちた
ばかりの果肉にはまだドリアン特有のアルコールの苦味が生じておらず、しかし食欲をそ
そる香りはしっかり立ち昇ってきた。

開発部門長はこのドリアンを増やすために、その樹を母樹として農業省に登録し、苗をた
くさん作って栽培した。名称はマタハリになった。農業省の新種認定証書が出るまでに十
年間を要したそうだ。


hepeにも似たような話がまつわっている。元々ジョンゴルの奥地にその樹があって、地元
民は昔からそれを食べていたが、1984年に世の中に知られるようになった。この果実
は種がしぼんでぺちゃんこになるのが特徴だったため、地元民は平たいという意味のスン
ダ語で通称していた。それがへぺだ。

樹は一本だけあり、それを地元民が好んで食べていたのだから地元の外に流出する果実は
滅多になく、世間がそれを知らなかったのも当然だ。へぺの果肉は甘さと苦さがたいへん
鋭く、それ以上にはなはだ強烈なドリアン臭を持っている。落ちたばかりの果実をボゴー
ルへ持って帰るために四輪車のトランクに入れたところ、車が帰着したとき乗っていたひ
とびとは全員が臭いに酔ってダウンしたそうだ。

果肉の苦味は発酵によって生み出されるものであり、へぺの発酵もすさまじいものである
ため、果肉を食べると呑み込むときに喉に焼けるような感覚が生じる。そして一時間くら
い経つと今度は腹が熱くなってくる。ジョンゴルの地元の男たちの間ではその現象に関し
て、へぺは男の精力を勃興させる食べ物だと信じられてきたそうだ。[ 続く ]