「ヌサンタラのドゥリアン(12)」(2023年03月16日)

中部カリマンタンにはpakenあるいはpampaken/pempakinなどの名称で呼ばれているドリア
ンがある。西カリマンタンではpakewai、東カリマンタンではlaiやelayと呼ばれていると
いう説明があるのだが、この中部カリマンタンの赤ドリアンにはDurio carinatusという
学名が与えられていてエライとは学名が違っているから、同種異名ではないように思われ
る。何はともあれ、みんな赤果肉ドリアンなのだ。白果肉ドリアンはあくまでもドリアン
と呼ばれていて区別されている。

パケンは外皮の形状がドリアンとそっくりだが、色が明るい黄色をしており、ドリアン臭
もきつくない。殻を割ると赤や虹色の果肉がつながって入っている。完熟しても果肉はク
リーム感がなく、軟らかい塊を食べている感触だ。

中部カリマンタンでもパランカラヤとバンジャルマシンを結ぶトランスカリマンタン街道
沿いに、シーズンになるとドリアン売りが出現する。木陰にテーブルを置いてパケンやド
リアン、あるいはランブタンやチュンプダッ、マンゴスチンなど種々の果実を販売してい
る。時には都市部にそれらの果実を運び込む卸屋のトラックがやってきて大量に買い取る
こともあるそうだ。しかしたくさん売れ残って夕方になってくれば、販売者はみんな大安
売りをする。それでも売れ残ったら、自分たちで食べる。食べきれないものは、仕方ない
から捨てられて腐るにまかせることになる。


ジャワ島東端のバニュワギ県も赤い果肉の赤ドリアンで有名だ。バニュワギ県には赤ドリ
アンが何種類かあって、味や色に特徴がある。同じ樹に生ったものでさえ、果肉は全面的
に紅色だったり、ピンクだったり、虹色になっていたり、白に虹の混じったようなものま
であって、豊富なバリエーションを見せてくれる。市場に出てくるものはやはり食べて美
味しい種の果実が選別されていて、色を見せるのは付加価値にすぎないのだから、森林の
中を自分で探すようなことをしないかぎり、味についての心配は無用だそうだ。

そういう商品価値を持つバニュワギの赤ドリアンの中で、balqis種は甘くて粘りがあり、
sun rise of javaは甘・鹹・旨味の混じりあった豊かな味わいを持っている。tretresも
旨味があり、macarenaは種が縮小してそのスペース分が果肉になっているボリューム型。
そんな中で、もっとも一般的になったのがdubang、つまりduren abangだ。この種は県が
繁殖を進めたために、バニュワギ県の特産物として2000年ごろから全国に名前が知ら
れるようになった。バニュワギでは、赤ドリアンは白ドリアンのシーズンが終わったあと
に収穫期になるため、ドリアンシーズンが他地方に比べて長い。これはビジネス上、たい
へん大きいメリットをもたらしてくれる。


昔、県行政がそんなところにまで手の回らなかった時代、バニュワギ県の赤ドリアンは知
る人ぞ知る珍品だった。ドリアンシーズンになると愛好者は流通業者に予約を入れ、たい
して大きくもない果実一個を手に入れるために25万ルピアもの大枚をはたいた。シーズ
ン最盛期には1万ルピアも払えば普通のドリアンが数個手に入った時代の話しだ。中には
赤ドリアンの樹を持っている農家の主人と渡りをつけて、果実が大きくなったことを確認
するとその家に出かけていき、完熟するまでその家に数日間寝泊りするような好事家もい
たという話もある。

バニュワギ県で赤ドリアンの樹を持っている農家が三軒あった。そのひとりがクミレン村
のセラッさんで、かれの曽祖父が森林を切り開いてその地所に居所を定めたとき、その樹
があったのだそうだ。セラッの果樹林には赤ドリアンの樹が4本ある。かれ自身も既に老
齢だから、それらの樹は百数十年の樹齢に達しているのではないだろうか。

昔はシーズンになると近隣住民が味わいを求めてやってくるだけだったが、今では見知ら
ぬひとが遠方からかれを尋ねてやってきて、予約をしていく。予約者はみんな名刺を置い
て帰るが、なんと予約の名刺を積み重ねると高さは20センチに達する。[ 続く ]