「ニニ・トウォッとジェランクン(4)」(2023年03月27日)

ふたりから四人までの男たちがルカの下端を持って立つ。当然ながら女の姿になったルカ
を逆立ちさせてはならないのだ。ましてや床に落とすなんて。

その人形に祈祷師が呪文をささやきかけると、女の人形が動き始める。動くと言っても、
物体である篭が軟体動物のように身をくねらせるわけがなく、多分篭の重心が移動すると
いうことなのだろう、持っている男たちが篭を支えながら右へ左へドタドタとよろめき回
るのである。

祈祷師が更に呪文をささやきかけると、ルカは更に動きを大きくし、早くする。支えてい
る男たちの動きも激しくなる。ルカはまるで倒れんばかりにあちこちに傾くから、倒して
はならじと支えている男たちは大変だ。ルカを支えている数人の男たちが辺り一帯を一緒
になってドタドタ動き回るのだから、こんな面白い見世物はめったにない。

祈祷師は「もっと暴れろ、もっと暴れろ」と言わんばかりに呪文をささやき続けるから、
ルカは狂ったように激しく動き続ける。そう、ミナン語のgiloはインドネシア語のgilaな
のである。

このルカギロという演芸はミナン人の慣習として行われる催事や会合あるいは結婚式など
のアトラクションになっている。たいてい夜に演じられているのは、霊の動きが活発にな
るのが夜だからだろう、とイ_ア語ウィキペディアは結んでいる。


このルカギロとジェランクンは本当に同一カテゴリーという見方がなされるべきものなの
だろうか?というのも、ルカ演芸というのは元々、ムラユの伝統ゲームだったからだ。ム
ラユの伝統演芸としてのルカは真昼間でも行われていた。

リアウ州やリアウ島嶼州では昔、河口や川沿いの居住地のどこでもルカ演芸は普通に行わ
れていたものだ。漁獲道具としてのルカそのものはそんな土地にごろごろ転がっているあ
りきたりの物だったのだから。

ムラユのルカ演芸では、何の装飾もなされないルカがそのまま使われる。この演芸を催す
側は三つの役割を十分満たせる人数を集め、見物人を前にしてそれを演じた。演芸の中心
を司るひとりが祈祷師役になって呪文とパントゥンを唱え、kompangあるいはgendangとい
うリズム楽器を打ち鳴らす者、そしてルカを支える者に分かれる。グンダンというのはガ
ムラン楽団で必ず使われるコンガのような長胴のドラムであり、コンパンはイスラム音楽
でよく使われるルバナのような薄い手持ちの打楽器だ。リズム隊はひとりから4人まで、
ルカ持ちはふたりから6人まで参加できる。ルカはサイズによって男性用・女性用・子供
用に分けられる。

唱えられるパントゥンは9行のもので、その中に次のような行が含まれている。
Ilek lughah mudik lughah
jumpe bemban betali tali
bukan mudah perkare mudah
tengok lukah pandai menari

グンダンが打たれてパントゥンと呪文が唱えられると、ルカは揺れ始める。リズムが強く
激しくなるにつれてルカの動きも激しさを増し、揺れ動くルカが手からはずれて床に落ち
ないようにするため、ルカ持ちも渾身の力を振り絞ってルカの動きをいなそうとする。ル
カ持ちが体勢を維持しようとして辺り一円をドタドタと動き回ることになるわけだ。
[ 続く ]