「ニニ・トウォッとジェランクン(終)」(2023年03月29日)

娘姿の人形に霊が入って人間と交信するニニ・トウォンの由来が何なのかは詳しい説が見
当たらない。グルド村のひとびとも、ともかく何百年も前から行われて来た伝統を引き継
いでいるだけだと述べている。

語義としては、ジャワ語のニニは若い娘、トウォンは顔全体が真っ白いという意味で、ニ
ニ・トウォン人形のヤシ殻の顔が真っ白に塗られていることを指しているという説明にな
っている。

ジャワ人はニニ・トウォンをThothok Kerotとも呼ぶ。ここでのトトッはニニ・トウォン
人形の必需品であるヤシ殻の頭を意味している。クロッは歯ぎしりだそうで、トトクロッ
という言葉は硬い物がきしむようなイメージを表現している印象を受ける。つまりニニ・
トウォンは艶やかな娘姿をしているが、その本質はハードなのだということを述べている
のかもしれない。甘く見てはいけないということなのだろう。


ラフルズのHistory of Java第一巻には、この演芸は霊的なものであり、たいてい満月の
夜にガムラン伴奏に合わせて、ニニ・トウォッはふたりの娘と踊る、と書かれている。1
901年のTijdschriftの中にバゼウ博士Dr. G.A.J. Bazeuはもっと長い解説を記した。
それによれば、最初この遊芸はジャワ王宮の中に興り、それが王宮の外に広まって行った
のだそうだ。

ススフナンパクブウォノ6世のころ、ニニ・トウォッ遊びは貴族の娘たちの間で盛んに行
われた。一方、王宮の外では未亡人たちが盛んにそれを行った。未亡人たちは自分の将来
をニニ・トウォッに教えてもらおうとしたのである。かの女たちが望んだ将来の予知の内
容はひとによってさまざまな問題が広範囲に存在していたはずだが、中でも最大の関心事
は自分がだれに再嫁することになるのか、自分の夫になる男はどこのだれなのか、といっ
たことだったそうだ。そのために未亡人たちはそれを行う前の三日間、断食をした。


ヨグヤカルタの超能力者のひとりはこのニニ・トウォン遊芸について、祈祷師が精魂込め
て呪文を唱え続け、ガムランの単調な響きが空間に満ち、人形持ちたちはトランス状態に
陥って深層意識下の自己を人形に転移させるのだ、とそのメカニズムを語っている。

その超常コンタクトは、だれかに呪いをかけて禍を与えようとするシャーマンが人形の心
臓を突き刺す行為を行うときに発生するものと同じだというかれの説明だった。[ 完 ]