「ポンティアナッ(2)」(2023年04月04日)

ムラユ文化でよく知られた幽霊のひとりがこのポンティアナッだ。元々puntianakに由来
したとされており、プンティアナッとはperempuan mati beranakが短縮されてできた言葉
だという説明が見られる。つまり出産時に死亡した女性の幽霊である。しかも出産に失敗
して死亡し、胎児もこの世に生まれ出ることなく母体と一緒に亡くなったケースがポンテ
ィアナッの源泉とされている。

インドネシアの非ムラユ地方でポンティアナッはkuntilanakという名称で呼ばれている。
ホラー映画やポンチ絵に描かれるクンティルアナッは、白い長衣を着て長い黒髪を垂らし、
おぞましい笑い声を響かせる女の姿をしている。人間を憎み、人間を殺す攻撃的な幽霊が
クンティルアナッなのだ。


ジャワ島でよく語られているストーリーでは、クンティルアナッはある時期に田舎の村に
出現するようになり、たいへんな美人の姿をして満月の夜に現われ、人気のない寂れた場
所を徘徊して男のナンパを待ち受ける。男がその針に掛かると暗い場所へふたりで忍んで
行き、性行為の最中に正体を表わして、男の生き血を吸い取って殺す。殺しの仕事が終わ
るとワルの樹の高い枝の上に月光を浴びながら立ち、口の端に付いた血をぬぐおうともし
ないで、聞く者を戦慄させる笑い声を立てるのである。

人間の娼婦かクンティルアナッかを見分ける方法として、クンティルアナッはフランジパ
ニの花の香りを漂わせており、また人間の姿で出現する場合は背中に穴が開いているので、
背中を調べればわかるという話になっている。

ところがスンダ地方のクンティルアナッには背中の穴がなく、背中に穴があるスンダの幽
霊はsundal bolongと呼ばれる別人だ。スンダルという語は性的にふしだらな女性を指して
使われる言葉であり、ボロンは穴があいていることを意味している。何やら意味深な表現
ではないか。

スンダルボロンという幽霊はクンティルアナッとそっくりの姿で描かれるために、同じも
のの異名と解釈するひともいるが、世間で語られている話を較べると細かい点に違いがあ
るようだ。スンダルボロンは背中の穴の中に内臓が見えていて、本人はそのありさまをと
ても恥ずかしがって常に長い髪の毛で穴を隠そうと努めている。そんな心理的なか弱さが
スンダルボロンにある。


このスンダルボロンは男にレープされた結果死んだ女性だそうだ。レープと死の関係はさ
まざまなケースがあるのだろうが、レープが直接原因であっても遠因であっても、そので
きごとがかの女の人生を狂わせたことは同じだろう。

そのときのレープによって妊娠し、死後に墓の中で出産した、というかの女のエピソード
が紹介されていて、クンティルアナッとは経歴がちがっているだけでなく、性格にも違い
があるように思われる。この幽霊は新生児をさらって去っていく性癖を持っているために、
赤ちゃんができた家庭はたいていこの幽霊を怖れる。

ヌサンタラでは今や、クンティルアナッとスンダルボロンの両方が徘徊していて、おまけ
にマレーシアにも出現するようになった。移住したヌサンタラのひとびとがスンダルボロ
ンの話をマレーシアに紹介した結果そうなったということらしい。


クンティルアナッは性行為の最中に男を殺すだけでなく、幼児をさらったり、出産直後の
女性に祟ったりもする。そんなクンティルアナッの攻撃から身を守るためには、釘・ナイ
フ・はさみなどを身の回りに置いておくとよい。そのような尖った物があると、クンティ
ルアナッは傍に寄って来ないのだ。新生児のできたジャワの家庭ではたいてい、赤ちゃん
ベッドの近くにナイフやはさみが置かれている。

もしもクンティルアナッが攻撃してきたら、背中の穴にそれらの尖った物を突き立てるの
だそうだ。しかし地方によっては、脳天に突き立てるように勧めているところもある。
[ 続く ]