「1950年代のジャワ人(9)」(2023年04月19日)

自然の怪異現象も悪霊のしわざと見なされて、疫病・飢饉・大災害などの予兆と解釈され
た。
*Lamphor 押し寄せる大音響の轟
*Kemamang 炎の姿で出現する
*Rijal 形を持たない奇怪な音だけのもの

1950年代のインドネシア語正式綴りはまだオランダ風のものが続けられていたので、
幽霊・妖怪の名称は書物に古い綴りで記されていた。上はそれを現代正式綴りに直したも
のだ。


フォースター氏が得た説明は上のようになっているが、現代インドネシアでは次のような
ものが常識になっているようだ。フォースター氏の記録と対照して見ると、時代の差とい
う要素は度外視できないものの、ミクロ世界という個人的体験から得られる情報と、マク
ロ的に大勢がよってたかって編集した情報の違いが感じられるのではないだろうか。

*Puntianak 
 拙著「ポンティアナッ」をご参照ください。
「ポンティアナッ(1)」(2023年04月03日)
「ポンティアナッ(2)」(2023年04月04日)
「ポンティアナッ(終)」(2023年04月05日)

*Gendruwo 
 ジャワ語ではこう綴られるが、インドネシア語では普通genderuwoと書かれてグンドゥ
ルウォと発音される。スンダ人はganderuwoと書いてガンドゥルウォと発音する。
ジャワの伝説で語られる巨大なサルの姿をした霊的存在で、皮膚は赤黒く、全身が長い毛
で覆われている。姿を現さないときは、水が流れる大岩、廃屋、巨木あるいは暗く淋しい
湿った場所に住んでいる。

死ぬ用意のできていなかった人間の霊という説もあり、また天上界に住んでいる人間の姿
をした霊という説もある。

ジャワ文化のグンドゥルウォはいたずらと女が大好きの男幽霊であり、寝ている女の服を
脱がせて身体を触ったり、その服を寝ている別の者に着せたりする。更には寂しい女とセ
ックスし、子供を産ませることもある。グンドゥルウォは女に催淫の魔術をかけるそうだ。
子供はもちろんグンドゥルウォの子孫ということになる。今生きている?人間の男たちはみ
んなグンドゥルウォの子孫かもしれない。

グンドゥルウォは夜、家の屋根に小石を投げる。私がジャカルタのパサルミングに住んで
いたころ、夜になると私の寝室の上の屋根で何かが跳ねながら転がり落ちる音がときどき
聞こえた。カラン〜カラン〜カラン〜カラカラカラカラという音だ。ところがその最後に
聞こえるはずのトンという地面を打つ音が起こらない。屋根の音が起こる時は一晩に数回
起こる。翌朝、何が落ちたのかを調べて見たものの、それらしい異物は地面の上に何も見
つからなかった。

その不思議な家ではときどき、わたしが寝室で仕事していたりすると、夜昼関係なく壁の
外をだれかがヒタヒタと裸足で歩く音がする。その家に住んでいる者の中に外を裸足で歩
く者はいないから、家の住人ではなさそうだ。かと言って、家は塀で囲まれており、表門
はいつも閉めてあるから、外から人間が入ってくれば門の開閉音ですぐにわかる。

わたしの子供たちはこの家に小人がいると言っていたが、妻の姪たちの中に「この家にラ
ッササがいる」ということを言う者がいて、どうしてそんな違いが起こるのか不思議に思
ったことがある。[ 続く ]