「1950年代のジャワ人(10)」(2023年04月20日) *Wewe ウェウェはwewe gombelと呼ばれるほかにkalong weweとも呼ばれている。ゴンベルとい うのは地名だそうだ。鬼面で乳房が腰まで垂れ下がった女の姿をしており、子供をさらう と言われている。ところがそれは物事の本質を見ないうわべだけの説明で、夜に家の外で 子供を脅かすのは早く家に入るように仕向けるためであり、また子供にむごい仕打ちをす る親から子供をさらうのも親に改悛させるのが目的であり、親が心を入れ替えると子供を 返してくれるという、まるで子供の守護神のような話になっている。 だが醜く怖ろしい姿をしているために子供も怖れて近寄ろうとはしない。ウェウェゴンベ ルにさらわれた子供は家に返されてきても、口がきけなくなっているという話だ。 カロンウェウェはコウモリの姿をしているためにその名が付けられた。しかし、その巨大 コウモリはウェウェゴンベルが変身したものであり、実体は同一であるというのが大多数 の意見になっている。 *Peri これは英語のfairyに対応する概念のようだ。もちろん語源は英語に由来したのでなく てペルシャ語のpariに由来したとされている。つまり英語がヌサンタラを訪れるはるか以 前からこの概念はインドネシアに入って来ていたと言えるだろう。ただし視覚化は英語文 化に基づいたようで、ピーターパンに出てくる妖精がインドネシア人のイメージするプリ の姿ではないかと思われる。 ペルシャ語のパリは地上に落ちた天使を意味しているそうだ。翼のある人間の姿をし、緑 陰に花の咲き乱れる大自然に住み、大自然の営みが守られるように保護と育成に努める仕 事をしている者たちと説明されている。 霊的存在を見ることができると自称するインドネシア人Om Hao氏によれば、プリには二種 類あるそうだ。ひとつは美しい娘姿で自在に人間界に出没し、人間にいたずらをするのを 生きがいにしている者たち。もうひとつは外国から来たプリで、小人の姿をし、背に翼が 生えている。 インドネシアの在来プリはジャワ島中部のムラピ山に王国を作っているとオムハオは物語 っている。ムラピ山に宮殿を持っている霊界の主はニャイ・ロロ・キドゥルだと一般に言 われているから、ひょっとしたらプリはそんな位置付けにある者たちかもしれない。 *Medi Pocong ポチョンとはカファン布を巻かれた遺体を指しており、その遺体がピョンピョン飛び跳 ねて動き回るものがmemedi pocongあるいはhantu pocongと呼ばれる。 人間が死ぬと霊は肉体から離脱して去っていくものなのだが、埋葬のときにカファン布の 縛りひもを解き忘れたりすると、霊は遺体からの離脱ができなくなる。死後四十日経過す ると霊はこの世から去らねばならないことになっているため、そのときに霊がまだカファ ン布の中に閉じ込められているポチョンは、カファン布の縛りひもをほどいてもらおうと して地中から飛び出してくる。それがポチョン幽霊の由来だそうだ。 ホラー映画に出てくるポチョン幽霊はピョンピョン飛び跳ねるのだが、そのような視覚化 がまだできなかった時代のポチョン幽霊は空中でフワフワ漂うのが普通だったそうだ。そ の変化はどうも人類が持った観念主義の先鋭化(良く言えば合理化)ではないかという気 がする。人類の知能が観念主義という方向性の下に進歩発展してくると、こんなことが起 こるのかもしれない。 *Cumpelung 現代ジャワ語で頭蓋骨を意味するチュンプルンはcumplungと綴られる。樹に生っている ヤシの実の中に丸い穴が開いて中身が空っぽのものもチュンプルンと呼ばれる。チュンプ ルン幽霊の詳細についてネット内を探してみたものの、フォースター氏の説明より詳しい 話が見つからなかった。[ 続く ]