「1950年代のジャワ人(14)」(2023年04月27日)

悪霊が棺架を空中に飛ばしている目的はその場所に疫病を広めるためであり、その村の住
民に落ち度があったのを怒って悪霊が皆殺しにしようとしていると言う話もある。魔界と
交わした約束を破ってtumbalを実行しなかった者がいるのか、それとも他の理由だろうか。

あるいはニャイ・ロロ・キドゥルに結び付ける説もあって、その悪霊の正体は南海の王宮
の警護兵であり、棺架は海から来る南風に乗って空を飛ぶので、通る場所はだいたい一定
していると語るひともいる。だから強い南風が吹いてくる夜はランポルに警戒しろと注意
する年寄りも少なくない。

さまざまなバリエーションが述べられているものの、共通しているのは大きな音がする点
だ。その音はよく聞くとwelwo, welwoと言っているように聞こえるので、ジャワ人はそれ
をdijawil lan digawa(触って連れて行く)と解釈している。連れて行かれるのが子供だ
けなのか大人も対象になるのかよく分からないけれども、日没を忘れて遊び惚けている子
供を家に帰らせるためにランポルがよく利用されるそうだ。

ランポルが村にやってきた懸念がある場合、村びとはバタラカラを追い払う時と同じこと
をする。ランポルも村にやってきた盗賊団と似たようなものなのかもしれない。

*Kemamang 
 ジャワ人にとって火の玉はバナスパティだけでなく、このクママンもそうだ。夜中に大
自然の中を通っている人間が時おり、空中に浮遊している火の玉を目にすることがある。
それは見た者の方に向かって来る火の玉であったり、あるいは木々の間から間へ飛び回っ
ている姿だったりする。

物識りによれば、頭が火で翼を持っている霊的存在がクママンだという説明になっている。
バナスパティと異なる点については、バナスパティはアグレッシブに人間を襲って殺す行
動が常なのに対して、クママンのほうは人間に襲いかからないというソフトな性質をして
いる。しかし、だからと言ってクママンは無害だということにならない。クママンに出会
った人間はその精神の根底を揺さぶられて狂人になり、挙句の果てに首を吊ったり高所か
ら身を投げて自殺する末路に追い込まれる。

クママンにしろバナスパティにしろ、かれらが火災を引き起こしたり、あるいは接触した
人間に火傷を負わせたという話がないようだから、その火は天然性の燃焼とはちがってい
るのではあるまいか。

ジャワ島のある地方では、クママンは水田の地面からちょっと上に巨大な火の玉となって
出現し、人間を捕らえて食い殺すと信じられている。インドネシア語記事には間違いなく
食い殺すと書かれていて、焼き殺すとは書かれていない。

このクママンも、その出現は人間界に起こる疫病・飢饉・大災害などの予兆であるという
説が語られていて、ランポルと類似の役割を人間界に果たしているようだ。しかしランポ
ルと違ってクママンの場合は、それらの疫病・飢饉・大災害をクママン自身がもたらすの
かどうかよく分からない。

*Rijal 
 ジャワ語辞典には、深夜に聞こえる奇怪な物音という語義が記されている。ジャワの田
舎の村では、夜が更けると住民は早い時間に寝てしまう。みんな朝の暗いうちから起き出
すのだ。どの家でも起きている者がいなくなって寝静まると、夜の闇は虫の声、小動物や
鳥の鳴き声、その他さまざまな物音で満たされる。そんな中に、時にグレーッグレーッと
いう、大きくはっきり聞こえる音が混じることがある。

それがリジャルだと言われているようだが、人間に何をするのか調べてみたものの、たい
した情報が見つからなかった。

アラブ語に人/男を意味するリジャルという言葉がある。ジャワ人ムスリムにとってはお
なじみの言葉だ。妖怪のリジャルがアラブ語に関係しているのかどうかは判然としない。
ところが、ジャワ人の語る天地創造の話の中にリジャルが登場するのである。そこでは自
然界の構成要素のひとつである光の原基物質という意味を持たされていて、それが人間の
生命の源になったという話の展開を見ると、ジャワ人の物語る天地創造説話は最初ヒンド
ゥ=ブッダ文化で組み立てられたものにアラブ文化の影響が入り、イスラム観念が混じり
こんでジャワ的なものができあがったように思われる。[ 続く ]