「ジェンキ建築(後)」(2023年05月03日)

ひとつの建物の中にいくつかの様式を組み合わせた折衷主義スタイルというものが建築ス
タイルの中にある。インドネシアのジェンキ様式の中にも折衷主義が混じっている。外観
に違いを作り出そうとする意欲が折衷主義の出現を煽るのである。オランダコロニアルス
タイルがジェンキ様式建築物の中にさまざまな要素を混ぜ込む測定基準になった。以前の
住居建物で目にすることのなかった諸形態がジェンキ様式の中に出現したことの理由を、
われわれはそこから感じ取ることができる。非対称形の窓枠、ひとつの建物に異なる素材
を混用する、時に過剰さを感じさせる壁の強調。窓と窓枠は新しい建築様式を強く印象付
けた。建物を形作るための単なる具象的素材だった建築資材はそれぞれの特徴を巧みに引
き出されて、ひとつの建物の中に居心地よく同居した。理想的な建物の表情を映し出すた
めに建築家の熟練と知識が資材の使用にバリエーションを起こさせたロジックをわれわれ
はそこに見ることになる。


ジェンキ様式とオランダコロニアルスタイルの基本的な違いは、地に着いた建築物をその
場所に据えるという点におけるコンセプトの深さにあった。オランダ人建築家の中には理
想的な建築作品を生み出すために、真剣にトロピカルの気候と文化へのアプローチを行っ
てインスピレーションをつかんだ者もいた。一方、ジェンキ建築家たちは現代建築を中核
に置いて熱帯の地にフィットする理想的なものを探求した。インドネシアに残されている
建物の現物から、われわれは自分の目でその違いを見ることができる。

気象的条件を、特に屋根が持っている保護機能を取り除いて見てみるなら、ジェンキ様式
はコロニアルスタイルに較べて耐久性に劣っている。その結果まず第一に、コンクリート
を使っているため多少とも熱帯の気象条件に対抗し得ている建物の隅のメンテナンスに直
接的な影響が及ぶ。


住宅地区の発展状況もジェンキ建築家の理想主義を強める方向に加勢した。都市部で住宅
地区が広がる一方、その中の環境が密集する傾向を帯びたために、住居を建てる土地面積
は昔のような広さを持ち得なくなった。ジェンキ様式の特徴的な建物の形態と姿は、それ
が建てられた土地の状況と直接的な関連性を持っている。それが建てられた土地の状況と
の関係下に、われわれはジェンキ様式が歩んだふたつの方向性を認識することができる。
その二種類のひとつが住居であり、もうひとつはヴィラだ。

ジェンキ様式住居が建てられた場所は比較的密集した住宅地区だ。一方、ジェンキ様式ヴ
ィラはたいてい都市辺縁部や街はずれに建てられていて、広い庭があり、建物間の距離も
互いに離れているものが多い。


コロニアル都市に存在するジェンキ様式の建物は独特のユニークさを作り出している。こ
れまでジェンキ様式の建物はひとつの独立した存在と見なされる傾向が強かった。という
のも、特定地区にジェンキ様式の建物が列をなして並んでいる風景を目にすることがない
からだ。一般庶民の間でわれもわれもとそのデザイン様式を求めるような流行がどうして
起こらなかったのか、それについての深い研究調査はまだ行われたことがない。インドネ
シアの都市発展史の中でジェンキ建築物が果たした貢献に目を向けた論説はいまだ見られ
ないのである。

独立した一個のユニットとして眺めているかぎり、ジェンキ建築物は明白な環境内アイデ
ンティティを構築することができない。ある地区内にジェンキ建築物がどのように分布し
ているのかについてすらいまだに明らかにされたことがなく、われわれが相変わらず古い
構図を眺めているだけの状態であることを示している。周囲にある住居からとびぬけてユ
ニークな姿を見せていることだけで、その存在がわれわれに深い感興を起こさせるためか
もしれない。


目に見えている姿の違いはわれわれに、考えなければならない疑問を抱かせる。特に熱帯
気候へのアプローチが創造させたデザイン構想の面を別にして、ジェンキ建築物は従来の
オランダコロニアル建築物ほどの質的な高さを持っていない。とはいえ、それがジェンキ
建築物に包含された価値を低落させているということでは決してない。建築作品としてジ
ェンキ建築物はインスピレーションの源泉であり、軽視することのできないサンプルなの
である。

残っているジェンキ建築物は現在と将来の建築設計のための参照資料として、また長所短
所を検討する学習素材として大きい価値を持つサンプルになりうる。(ユリアント・スマ
ルヨ - 1993)

少なくとも、種々のチャレンジに満ちあふれ、ジェンキ建築物を作り出す結果をもたらし
た社会状況に彩られた時代をわれわれは歴史の中に持ったのである。無視したり軽視した
りされてよいものでないことは言うまでもあるまい。[ 完 ]