「オクヌム(前)」(2023年05月04日)

ライター: 音楽家、スカ・ハルジャナ
ソース: 2007年11月18日付けコンパス紙 "Oknum" 

正直言って、言語専門家でないわたしはoknumの語源を知らない。多分外国語に由来して
いるだろうと想像できる程度だ。とはいえ、わたしだけが知らないわけでもない。オクヌ
ムの語源を知らないひとは大勢いる。この奇妙な言葉が何を意味しているのかをわたしも
おおよそのところはわかる。大勢の語源を知らないひとたちと同様に。

ある集団あるいは特定の組織のひとりが何かを行い、処置し、決定するとき、その行為・
処置・決定がその者の所属集団や組織の意志を代表しておらず、それどころかそれに背い
ているという場合にその行為者であるひとりの者を指す言葉がオクヌムだ。論理上そのオ
クヌムと呼ばれる者はその集団や組織と関係を持つ者であって匿名者ではないのに、オク
ヌムという言葉によって匿名にされている。アブラガドゥルグループのウジャンという者
と表現されず、アブラガドゥルの者という意味にされている。それがオクヌムだ。

その人間は特定集団や組織の構成員のひとりである可能性が高く、ひょっとしたら重要な
ポストの役員かもしれない。だがオクヌムと表現されることによって、特定集団や組織か
ら切り離され、特定集団や組織はそのオクヌムの行為と無関係であるような印象を世間に
与えることになる。

シンプルな例として、ある行政高官や公務員が行った汚職が摘発されたときに犯人をオク
ヌムと呼ぶことで役所の高官や公務員はみんな汚職をしているという世間の一般常識が向
けて来るほこさきの威力を弱めることができるという構図だ。


一般的にオクヌムの語は、何者かによってなされた特定集団や組織にデメリットをもたら
すと見られる行動・処置・決定に関連して使われており、自分の組織の一構成員が行った
誤った行為をオクヌムによるものと規定することで集団や組織の責任外に置き、間接的に
組織の名前を汚さない結末に向かわせる効果を持っている。構成員の悪事を組織から切り
離して組織のイメージを清浄に保つための、実に巧みなチュチタガンの手法だ。

たとえば、軍人のひとりが強盗を働いたとき、その者をオクヌムと呼ぶことで、軍隊とそ
れに所属する構成員という構図があやふやになり、オクヌムと軍隊の関係はあたかも同等
のウエイトを持つ個別のものという印象が強まる。ある省や国家機関の高官が汚職を摘発
されたとき、その行為はオクヌムが個人として行ったものというイメージに向かう。警官
や政治家が収賄を行ったとき、その行為は所属する警察機構や政治団体と無関係にオクヌ
ム個人が行ったことだという解釈が通用する。


オクヌムの語は1970年代終わりごろに治安秩序回復作戦コマンド司令官のスドモ提督
が流行させた。治安秩序回復作戦コマンドは今のミャンマー軍事政府のようなものだ。行
政高官や職員たちの逸脱行為が盛んになった現象がオクヌムの行為という言葉で表現され
た。かれらが所属する組織で行われたものという話にされなかった。社会の中で担うべき
責任から逸脱したオクヌムの事件は日を追って増加して行った。

オクヌムの語が一般化した結果、軍隊から世間一般に使用者が拡大していった。国家指導
者や行政高官たちをはじめ誰もが容易に、あらゆる局面でオクヌムのレッテルを使うよう
になり、そのまま現在に至っている。[ 続く ]