「ジャワ島妖怪大全(2)」(2023年06月06日) ジャワ人が幽霊話を好むのは、そこに見られる人間の生と死およびこの世とあの世という 宇宙観に影響されたものだとインドネシア大学インドネシア文学教官は語っている。かれ によればジャワ的コンセプトにおける人間の死に二種類あり、善い死として老衰・神の道 における死・出産時の産む者あるいは産まれる者の死などがあり、悪い死とは異常な死、 つまり自殺死や他殺死あるいは事故死などだそうだ。 ジャワの怪談の中のトップスターはグンドゥルウォのようだが、ジャワ人の認識している 幽霊・妖怪は他にもwewe gombel, kuntilanak, cumplung, cerangkong, banaspatiなどた くさんいる。ジャワ人が描く妖怪はいったいどこからこんなにたくさん出てきたのかと思 うくらいたくさんいて、驚くばかりだ。1896年にファン・ヒンH.A. Van Hienが著し たジャワ人の霊的世界De Javaansche geestenwereldという書物には95種類のmakhluk halusが記されている。 スラバヤで発行されているジャワ語の週刊誌Panjebar Semangatはブディウトモ創設者の ドクトルストモが始めた、今では全国で第二の長命を誇っている週刊誌だ。当初は民族独 立の意欲を鼓吹する目的に焦点が当てられたものの、独立して何十年も経てば雑誌のミッ ションは変化せざるを得ない。 この雑誌の人気コラムのひとつがAlaming Lelembutであり、文学者の中にはその長命の秘 密がそのコラムの伝える怪談にあると断言するひともいる。この種の怪談を掲載するジャ ワ語雑誌は他にもJoko Lodang誌がJagating Lelembut、Joyo Boyo誌がCerita Misteriを 好評連載していて、ジャワ人の神秘好みを反映しているように見える。 パニャバルスマ~ガッには、自殺死・事故死・殺害されたりレープされた結果の死では霊 がこの世を彷徨うことになり、生きている人間の祈り、キアイのような宗教を極めた者あ るいはドゥクンがその彷徨いを救うことができると述べられている。 1950年代にモジョクトで調査を行ったインドネシアニストのクリフォード・ギアツは Abangan, Santri, Priayi, -Priayi dalam Masyarakat Jawaと題する論説の中で、ジャワ のmakhluk halusはmemedi, lelembut, tuyul, demit, danyangの5種類に大別できると書 いた。 ジャワ語の門の下で雨宿りしているわたしには、ギアツが何を基準にしてそのカテゴリー 化を行ったのかがよく分からない。ジャワ語におけるそれらの意味を調べたところ、こん な具合になっていた。 dhemit 目に見えない一般的存在 memedi 恐怖を与える不可視的存在 lelembut 人間に憑りつく霊的存在 tuyul 富や財を人間に得させる超常的存在 dhanyang 特定の場所を守護する不可視的存在 もちろんそれらの語はすべてインドネシア語に摂り込まれていて、KBBIはインドネシ ア語としての語義をこのように示している。 demit = dedemit: makhluk halus yang jahat dan suka mengganggu manusia, roh jahat memedi: makhluk halus, hantu lelembut: makhluk halus, hantu tuyul: makhluk halus yang konon berupa bocah berkepala gundul, dapat diperintah oleh orang yang memeliharanya untuk mencuri uang dsb danyang: hantu penjaga (rumah, pohon, dsb) ジャワ語では何となく整然と区分されているように思われる概念が、インドネシア語の語 義に置き換えられると何が何やら分からなくなってくる。言語摂取の過程で起こる現象が 多分こんなものなのだろう。[ 続く ]