「ジャワ島妖怪大全(3)」(2023年06月07日) ガジャマダ大学教授のスワルディ・エンドラスワラ博士はジャワのハントゥを専門分野に している。博士はジャワのハントゥを次のように分類した。 A 特定の場所・領域を支配する者 B 恐怖を与える者(ムムディ) C 女が化けた者 D 人間に飼われる者(プレワガン) E 動物に由来する危険な者 F 尊ばれる者 G 人間に憑りつく者(ルルンブッ) クリフォード・ギアツの分類よりも細かくなっているようだ。ではそのそれぞれのカテゴ リーに含まれるハントゥをご紹介していこう。 A 特定の場所・領域を支配する者 1 dhanyang merkayangan ある土地の発端となった霊。いつも僧侶や修道者のような白装束の姿で出現し、時には長 衣で現れる。村や町を興した祖先の霊である場合はdhanyang semarabumiと呼ばれる。庭 や広場などの空いている土地が平穏無事であるように守護している。かれらの暮らしは人 間と同じようなもので、時に祝祭を行ってワヤンを催したりする。 上級に位置するダニャンは明白なテリトリーを持っていて、その領域に住む人間は必ず供 物を捧げることになっている。ジャワ人がスラマタンを行うとき、決してダニャンへの供 物を忘れてはならない。それを怠るのは論外で、供物の質や量が気に入らない場合ですら ダニャンは憤懣を住民に向けて来るし、自分を尊敬しない者には攻撃的になる。供物をお ろそかにすると、祝祭を行っていた者が突然病気になり、うわごとを言い出すような現象 が起こりかねない。 ダニャンの性格は土地土地で違っているが、共通して言えるのは土地の慣習が維持される のを好むことだ。献じる供物の内容にせよ、スタイルや方法などにせよ、昔から行われて きた慣習を変えるのはよくない。そして尊敬の念を欠かさないようにするのが、ダニャン のいる暮らしに波風を立てない方策になる。 2 kajiman 古い家屋に住み着くのがカジマンだ。家を空き家にしたり廃屋にしたりすると、カジマン の棲み処になる。特に周囲が淋しい環境で家の中が暑苦しいと、カジマンにとっては願っ たりの棲み処になる。カジマンをジンと呼ぶひとも少なくない。 3 siluman 自分を人間や動物の姿にコピーして人間界に出現するのがシルマンだ。そのシルマンの性 質が獰猛であると、コピーされた人間や動物も獰猛になると言われている。シルマンが他 人の姿をしてどこかで悪さをしたあと姿を消し、コピーされた人間が罪を着せられるとい うことも起こる。川にいる大きな魚を捕まえようと網をかけ、いざ引っ張り上げたら魚の 姿が消え失せたということも起こる。 シルマンが住んでいる場所は水気のあるところだ。湿地・池・海岸・木・・・。王宮の大 奥の水浴場などにはたいていシルマンが住んでいる。ラトゥキドゥルは南海岸をテリトリ ーにするシルマンであり、アンバラワのラワプニンはサルパバンサというシルマンのテリ トリーだ。クロンプロゴのムノレ地方にあるチュレレン水浴場はニロレンパティが住んで いて、水浴場の水を守り、また環境と風紀を維持することを務めにしている。水浴に来た 人間の振舞いがニロレンパティを怒らせると、このシルマンはその者を水中に引きずり込 むと言われている。[ 続く ]