「ジャワ島妖怪大全(4)」(2023年06月08日) ヨグヤカルタのムラピ山にもシルマンが棲んでおり、かれらはときおり南海の王宮に伺候 して親睦を深めている。かれらが南海に向かうときは、ジョグジャの町を二分しているチ ョデ川を通ってスレマンに抜けてから、バントゥル県のオパッ川を通ってパラントリティ スに至る。そして海岸に到達した一団は各自が思い思いの方向に散らばるのだそうだ。 シルマンたちは人間と似たような社会生活を営んでいて、地方の王が上位の王に挨拶に伺 うことをし、そのときは王者としての威厳を示すために多数の騎馬軍勢を引き連れて川の 流れの上を進む。それを迎えた上位シルマンの王宮では、ガムランの響きに伴われて美し い娘たちが舞いを舞う。そのガムランの響きは、はるかかなたから心地よい響きを人間の 耳に届かせる。人間はそのどこから聞こえてくるのかわからない楽の音に不思議の思いを 抱くのである。 王宮での宴や会談が熱を帯びてくると、海岸の波が騒ぎ始める。場の空気がもっと高まる と、かれらの集いの場で空気が爆発する。そのとき地上では大地が揺れる。人間はそれを 地震と呼んだ。 シルマン世界の相談事はたいていが人間や動物のふるまい、あるいはかれら以外の妖怪ど もが行う不埒な行為に関するものだそうだ。そのいずれであれ、許容できないという結論 に達すると、シルマン側からの反撃が開始される。 4 bekasakan ブカサカンは粗野な乱暴者で、巨木がたくさん生えているうっそうたるジャングルに住ん でいる。姿を現すときは、巨大な真っ黒い影になる。 5 kebleg 台所によくいるハントゥで、夕方になるとブルッブルッブルッという音を出すため、クブ ルッと名付けられた。姿は雄鶏によく似ていて、幼児を怖がらせる。時には料理人と仲良 くなることもある。これは音の妖怪であり、夜中に台所からクブルッが出す音が聞こえる と一家中が寝床で震えあがることも稀でなかった。 人間に対して強い害意を持っているわけではなく、人間が親しもうとすればクブルッもそ の相手に善意を向ける。しかし人間が毛嫌いして優しくない仕打ちをすれば相手も反発し てくるのが当然だ。 台所の中のクブルッの根拠地はかまどであり、かまどで燃やされる薪の火を操るのがクブ ルッの第一の仕事だ。クブルッは薪の火が燃え上がるのを嫌うので、かまどで炎を燃え立 たせてはいけない。また、火の燃えているかまどを背にして立つ人間をクブルッは嫌う。 そんな人間の背にクブルッはしばしば炎を吹きかけたりする。 B 恐怖を与える者 1 genderuwo グンドゥルウォは赤黒い肌の大男だ。ジャワ式正装をして姿を表わすこともあるが、少し 頭が弱いために手入れなしのぼさぼさ頭にいいかげんな服の着方をして出て来ることもあ る。人間の女とセックスすることに目がなく、激しい性欲を持っていて、その機会に立ち 至ればグンドゥルウォは精力絶倫のふるまいをする。 ジャワ人はグンドゥルウォを好色ジンと呼んでいる。家の中にいる淋しい主婦がグンドゥ ルウォの好むターゲットだとよく言われるが、若い生娘が女性の姿と香りを発散させてい れば、黙って傍を通り過ぎるような性格を持ち合わせているわけでもない。 ハビタットは巨木のたくさん生えているジャングルで、夜はしばしば人里近い寂しい場所 にある巨木や、あるいは水が流れる大岩などの周辺を徘徊する。姿を隠したグンドゥルウ ォからはかぐわしい香りとそよ風が流れて来るので、夜中に突然そんな現象が起こると警 戒しなければならない。[ 続く ]