「ジャワ島妖怪大全(8)」(2023年06月14日)

2 setan gundhul
坊主頭で小人の姿をしているのがセタングンドゥル。肌の色は赤っぽく、目つきが鋭くて
恐ろしげ。特技はトゥユルやブトイジョと同じだが、トゥユルが他人の金を少しずつ盗む
のに対してセタングンドゥルは丸ごと、しかも金が入っている入れ物ごと盗んでくる。

3 thuyul
トゥユルは小人の子供の姿をしているが、子供のジンではない。男児も女児もいて、身長
は50〜80センチくらい。肌の色は赤っぽい茶色で人間の赤児のようだ。頭は坊主頭に
なっている。さまざまなハントゥがいる中で、トゥユルはおとなしくて飼い主に従順な種
である。内心で人間を怖がる面を持っていて、特にトゥユルのことに詳しい人間には頭が
上がらない。しかし自分への待遇が悪いと怒ることもある。

特技は他人の金銭や有価証券、高価な品物などを盗むこと。特に金銭は、持ち主が減って
いることに気付かないように少しずつ盗む。家から家を巡って盗みの仕事をしてこいと飼
い主はトゥユルに命じる。プスギハンに狂ったジャワ人はトゥユルを数人飼って、毎日目
標金額を与えて盗みに行かせるという話だ。

しかしジャワ人社会でトゥユルを飼っている人間を見つけ出すのは容易でない。ひょっと
したら隣の家が飼っているかもしれないではないか。しかし飼っていることが世の中にば
れたら世間からつまはじきされるに決まっているから、飼い主はそれを極秘にする。盗ん
だ金が手に入っていることをカモフラージュするために、表向きは何かの商売を本業とし
て世間に示している。そしていざ金持ちになったらトゥユルを飼うのをやめる。そのあと
は手に入れた資産を回転させて食っていればよいということになる。

祝祭やスラマタンを行った家には、客の寄付が集まる。それがトゥユルのターゲットにな
る。宴が終わってその家の主人が寄付金を数える前に、トゥユルは寄付金入れの籠から現
金を少しばかりつまみ出すのである。そうなると、家の主人はトゥユルにかすめ取られた
ことすら判らない。

普段の仕事でも、金銭がどこに置かれているか、他人に取られないようにどんなに厳重に
保管されているか、といったことがその家に入ったトゥユルの障害になることはない。ト
ゥユルが金を盗んでいることを知った家の主が、トゥユルが来るのを待ち受けて痛めつけ
ようとすると、トゥユルも怒る。と言っても立ち回りが起こるわけではない。トゥユルは
その場から逃げるだけだ。そして別の日に、残っていたその家の金を根こそぎ盗むのであ
る。

トゥユルを飼うときは、霊への供物が絶対に必要になる。何を供物にするかは飼い主とト
ゥユルが交渉して決める。加えて、トゥユルは待遇に関する要求をすることもある。それ
らの約束をきちんと果たさないと、トゥユルは飼い主の指図を聞いてくれなくなる。そし
て最終的にトゥユルは飼い主のもとから逃げだしてしまう。トゥユルの不満が恨みにまで
達すれば、飼い主に危険が降りかかるおそれもある。

4 buta ijo
ブトイジョもプスギハンのために使われる。姿はその名前の通りの緑色をした巨人であり、
見るからに恐怖をかきたてる。トゥユルは少額の金を集めるが、ブトイジョは大金をごっ
そり盗んでくるから、飼い主はいきなり大金持ちになる。

ブトイジョを飼う方法はトゥユルと大差ないものの、ブトイジョはたいていトゥンバルを
要求する。トゥンバルとは成功を得るために犠牲にされるものを意味しており、飼い主に
とって大切な者の生命がトゥンバルに要求されることもある。ブトイジョへの毎日の供物
は欠かせない。ブトイジョを傷つけたりすると、ブトイジョは暴れて無差別な攻撃をして
くるからたいへん危険だ。

ティラカッを行ってブトイジョを呼び出すこともできる。ティラカッとは禁欲の行を意味
し、日常生活における欲求を抑えて瞑想にふけったり、また人のいない場所に閉じこもっ
て瞑想するような行を指している。[ 続く ]