「ジャワ島妖怪大全(11)」(2023年06月19日)

14 balung kokan
バルンコカンは猫や犬のような姿をしている妖怪で、人間の周りを走り回って怖がらせよ
うとする。しかし捕まえようとすればすぐに捕まるし、人間を噛もうともしない。人間に
馴れるから飼うこともできる。しかし妖怪を飼うのだから、住む家がその雰囲気を帯びる
のは当然の帰結だ。ましてやその動物を虐待したり殺したりすれば、その家は呪われた家
になりかねない。夜中に赤児の泣き声が聞こえたり、埋葬された人間の骨が家の周囲に散
らばっていたりするような家に。

15 kicir
チルルル・・と夜中に奇妙な音を長く響かせるハントゥがキチルだ。夜中に巨木のある淋
しい場所を通りかかると、そこにキチルがいて音を出す。通行人がその場所を通り過ぎて
も、音だけはその後を追ってくる。通行人がまったく怖がらずに無視していると、小石を
投げてその者の目の前に落としたりする。キチルは人間を害しようとしているのでなく、
単に怖がらせているだけなのだ。

F 尊ばれる者
1 jalangkung
ジャランクンは人間が作ったハントゥと言える。人間がバナナの花を使って人の形に飾り
つけたものにルルンブッが入るとジャランクンになる。そのため、この人の形をしたもの
は人間の欲求を感知し、人間が尋ねることの答えを紙に書く。

ジャランクンの人形は竹の胴とヤシの実の殻の頭でも作られる。ルルンブッをジャランク
ンに入らせるためにちょっとした儀式が必要になる。ルルンブッがジャランクンに入れば、
この人形は人間が出すあらゆる質問の答えを紙に書いてくれる。

2 thothokkerot
トトックロッという名称よりもニニ・トウォッあるいはニニ・トウォンの方が通りが良い
だろう。トトッというのは柄杓にするヤシの実の殻を指していて、柄杓に服を着せて人形
にしたものだ。その人形をどこかに捨てると、ルルンブッが住み着く。そして近くを通る
人間にちょっかいを出す。夜に泉に水を汲みに来る女性が第一ターゲットにされる。

ニニ・トウォンにルルンブッを呼び込むために、儀式が行われる。その儀式は古いジャワ
の遊戯の形式を執り、死者の霊をそこに呼ぶのである。その儀式は聖人と見られているド
ゥクンによって、不気味な雰囲気の場所で行われる。その場所では地面にござが敷かれ、
その上に供物がたくさん置かれる。

ドゥクンはまず香を焚いて呪文を唱える。ニニ・トウォン人形は先にざるの上に座らせて
あったのが、ルルンブッが入るとくずおれる。それをまた元通りに座らせようとすると重
くなっていることがわかる。そのあとはニニ・トウォンをほめたたえる歌を唄いながら娘
たちが人形を高く捧げて周辺を練り歩く。

バントゥル県プンドン郡パンジャンレジョ村ではニニ・トウォン降霊儀式が今でも行われ
ている。稲の取入れが終わってから、サロン、ゴン、クンダンなどいくつかあり合わせの
ガムラン楽器の伴奏でダニャンを呼ぶのだ。呼ばれるのはデンバグス・ムル、デンアユ・
パイラ、デンアユ・ユリア、デンバグス・スマントリであり、これは祖霊の加護を願う儀
式のようだ。そこでは、ニニ・トウォンは霊を呼ぶための媒体として使われている。

G 人間に憑りつく者
1 dhengen
ドゥグンは人間にへばりついて病気にする。人間が好む場所に住んでいて、人間がその場
所を荒らすと報復する。たとえばジャンブの木があるエリアにドゥグンが棲んでいるのを
知らないまま、実を取りに来た者が実を集め、葉をヤギの餌にするために集め、あるいは
バナナの葉を切り集めて家に持って帰ろうとするとドゥグンはその者に付いて行き、家に
入ったあとで憑りついて病気にする。[ 続く ]