「ジャワ島妖怪大全(13)」(2023年06月21日)

タパクンクンあるいはタパクンクムというのは首まで水に浸かって瞑想する行であり、多
分日本で水垢離と呼ばれているものに該当するのだろう。タパクンクムは二つの水流が合
わさる場所で行い、身に一糸もまとわず、水流の来る方に向かってあぐらで座る。そして
目を閉じ、手を胸に組んで瞑想するのである。深夜正子の時刻に開始し、少なくとも三時
間は続けること。その間身体をあまり動かしてはならないので、水流の強さ、座る場の泥
や滑り具合などにも注意を払って行のための絶好な場所を選択しなければならない。


スワルディ・エンドラスワラ博士の妖怪リストは上のように49種にのぼった。ファン・
ヒンが著したジャワ人の霊的世界には95種類が挙げられているという話だが、わたしの
資料にはその6割くらいしか示されていなかった。ともあれ、それでもスワルディ博士の
49種よりは多い。

わたしの持っているこの資料に見られるものはジャワのアニミズム信仰者が信じているハ
ントゥであり、それは人間に由来するものとムムディの一派に分類されている。これに関
する詳細もお知らせせずには済まないだろう。

I 人間に由来するハントゥ
1 dhanyang desa
ダニャンはその姿を人間に見せないハントゥだ。DhanhiangあるいはBaureksaとも呼ばれ
て村の開祖として崇められている。人間がそこに村を開く前からその周辺あるいはその地
域にいたハントゥで、そこに住むのを好んだためにエリアの守護霊になった。すべての村
民が享受する恩恵と安全はダニャンがもたらすものだ。しかしダニャンが満足するように
村民が振舞わなかったり、敬意を示さなかったり、ないがしろにしたりすれば、村は試練
や災厄に見舞われることになる。

ダニャンデサは村が繁栄するための源泉であるため、村人はそれへの尊崇を示し、家の中
のどこかの隅に供物を置く場所を用意して、家の主人が定期的にそこで香を焚く。

ダニャンデサの棲み処は村に近い場所にある巨木や大岩、あるいは墓地などで、そこは聖
域とされている。そこに不用意に近づくことは禁止されており、従わない者は事故に遭っ
たりして罰せられる。

ダニャンデサへの尊敬の印として木曜の夜に香が焚かれる。必要があれば供物を用意して
ダニャンを呼ぶ。長旅に出る者は道中の無事を願ってダニャンデサのために香を焚く。恋
に落ちた者は自分を無視する相手が自分に目を向けるようにダニャンデサの助力をお願い
して呪文を唱え、香を焚く。


ジャワで、ダニャンと交信するための呪文はたくさんある。多分、村ごとに違う呪文が作
られたのだろう。それぞれのハントゥがそれぞれの村のダニャンになったのだから、住民
とかれらのダニャンとの個別な関係が築かれ、定められた呪文も個別な関係の中でのもの
になったはずだ。

しかし時代が下って最初の呪文が忘れられた村では、新しいもっと簡単な呪文を作ること
も起こっただろうし、隣村の呪文を真似ることをしたかもしれない。呪文が異なっていた
ということはダニャンがそれぞれ異なる個性を持っていたことを示しており、その帰結と
して各ダニャンの間で力量の上下が発生したようだ。

地理的にまとめられる領域内の村々の間でダニャンの能力の優劣が段々と明らかになって
くると、最も力の優れたダニャンが一段上に置かれる現象が起こった。その最有力ダニャ
ンはDanyang Tuwoと呼ばれた。婚姻・収穫・田起こしなどに際して他の村がダニャントゥ
オにも祝福をもらおうと望み、地場ダニャンに加えてダニャントゥオも招くことが行われ
るようになった。[ 続く ]