「塩を求めて(1)」(2023年08月01日)

99,093キロメートルの海岸線を持ち、一年中熱い太陽が照りつける熱帯のインドネ
シアで海水から食塩を作るのに何の障害があろうかと誰しも思うわけだが、国の中に障害
が山のように存在しているようだ。なにしろ、国内総需要の三分の二が輸入されているの
だから。

食塩の産地はジャワ島からはじまって東の小スンダ列島に連なっている。大産地のマドゥ
ラ島ではサンパン県スムヌップ県パムカサン県がトップに並び、スラバヤ・ラモガン・ト
ゥバン・プロボリンゴと続く。中部ジャワはパティ・ルンバン・ドゥマッ、西ジャワはチ
ルボン・インドラマユ、バリ島はプレレン、西ヌサトゥンガラ州ではビマ・東ロンボッ、
東ヌサトゥンガラ州はナゲケオ・クパン・北中部ティモール。

その一連の並びから離れてスマトラ島はアチェのみ、スラウェシ島では南スラウェシ・中
部スラウェシ・ゴロンタルに点在している。


それらの産地では塩田方式で海水から食塩を作っているが、その方式では1キログラムの
海水から30グラムの食塩しか得られない。塩田は平らな海岸を必要とし、土地は水分が
浸透しにくいもの、その一帯で得られる海水は品質の良いもの、海が穏やかで海面の干満
差が小さい場所などが重要な自然条件になる。ジャワ島のインド洋側海岸に塩田がひとつ
もないのは、そんな条件のせいだ。

海水自体の品質もたいへん重要だ。世界中の海にある海水がすべて同じだと思ってはいけ
ない。重金属含有が少なく、汚染度が低く、塩分含有度の高いものが望まれる。インドネ
シアの海水は塩分含有度が乾季で33pptしかない。オーストラリアでは35〜36pptも
あるというのに。

塩田の生産効率も気象の影響を受ける。日照時間・日射量・雨量・大気中の湿度・風力が
効率を決めるのである。インドネシアが熱帯に位置しているとはいえ、この気象条件は亜
熱帯のいくつかの国に比べて決して良くない。食塩生産に良い効果をもたらす乾季は一年
のうちの4〜5カ月だ。食塩生産国ランキングで上位のオーストラリア・中国・メキシコ
などでは、塩の産地は年間11ヵ月も良い日射量が得られている。海岸線が長ければ食塩
生産が有利だということでは決してないのだ、と専門家は解説している。


おまけにインドネシアの塩田は生産性が低い。塩生産のための稼働がフルタイムでないか
らだ。海洋漁業省の2015年データによれば、塩田総面積3万Ha足らずの土地が1シー
ズンに産出した生産量はヘクタール当たり113トンだった。さまざまなデータも、年間
のヘクタール当たり生産量は40〜60トンを示している。

インドネシアの塩田用地は1Haがふたりの生産者に使われている。塩の生産は8〜11月
の四ヵ月に行われ、他の月はエビやバンデン魚の養殖池に使われているのだ。塩の生産も
伝統的な方法が続けられており、科学技術を導入して生産量を増やす努力はほとんど見ら
れない。

政府が決めている塩の公定価格が低すぎるために、生産者の意欲が塩作りに向かわないの
である。インドネシアと類似の伝統的工法を続けているインドはそこのポイントに違いが
あるため、インドでは生産者が生産効率を高めることに力を入れており、必然的に単位面
積当たりの年間生産量が大きく違ってくる。

インドネシアの今後の製塩産業の拡大に関して海洋漁業省専門家は、ジャワ島沿岸は海水
の重金属汚染のために将来性があまり期待できないことから、海水の品質が優っていてし
かも年間8〜10ヶ月という日照条件のよい東ヌサトゥンガラ州に期待がかけられている、
と語っている。[ 続く ]