「塩を求めて(7)」(2023年08月09日)

広大なインドネシアの片隅には珍しい現象がいくつも見られる。東ヌサトゥンガラ州ソロ
ル島のムナガ港のすぐそばに塩をたっぷり含んだ土地があり、住民がそこの土から塩を作
っているのだ。その土地はかなり広い面積を占めていて、地面は常にわずかばかりの水を
かぶった湿地状になっている。そしてそこに地割の杭がたくさん立てられて、権利者の境
界線が明示されている。そこの土がやたらとしょっぱいのである。

その土を使って商業用に塩づくりを行っているママ・マハニさんが、「この土は海水より
しょっぱいですよ。」と言う。かの女の塩の作り方はこんな方法だそうだ。

まず十分な量の土を取ってきて、きれいな海水と混ぜる。しっかりとかき混ぜてから、土
をよく搾って水分を取り出し、それを濾過する。その水を40x80x20センチの方形金属容器
にいれて加熱するのである。鍋の水分がなくなってきたら水をつぎ足すようにして、搾っ
た水を使い切る。数時間でおよそ2キロの塩が得られる。

ママ・マハニは乾燥させたヤシの葉で作った大きめの容器に10キロくらいの塩を入れ、
それを1個あたり1万5千ルピアで販売している。「この塩を使って料理すれば、塩だけ
で十分においしい料理ができますよ。他のブンブなんか使わなくてもだいじょうぶ。」と
ママ・マハニは自分の製品を宣伝した。


中部ジャワ州グロボガン県クラデナン郡クウ村に泥水を噴出させている泥火山があり、噴
出音を擬音化してbledugと呼ばれている。ブルドゥックウと公称されているここの泥水が
塩味なのだ。

場所はウィロサリ=クウ街道のすぐそばで、容易に訪れることのできる観光資源になって
いる。2006年に東ジャワ州シドアルジョ県ポロンで起こった熱泥噴出はおよそ2百Ha
を埋め尽くしたが、規模こそ違え、雰囲気的にはよく似ている印象だ。

しかしブルドゥックウの泥水は15〜30℃で噴出し、地区一帯の気温は31℃あるので
熱泥とは言えないが、ポロンの熱泥は60℃くらいあった。クウに噴出した泥は東西方向
650メートル南北方向460メートルほどで総面積40Haあまりの泥溜まりを水田のど
真ん中に形成しただけで、それ以上拡大することは免れた。その泥溜まりのほぼ中央で数
分おきに高さ5メートル直径8メートルほどの噴出が起こっている。

住民は噴出して来た泥を受け、その水から塩を抽出している。竹を半割にしてそこに塩水
を入れ、太陽熱で乾かして塩の結晶を取り出す方法だ。既に乾燥して固まった荒涼たる泥
溜まりの上に住民は塩水の入った竹の棒をいっぱい並べて塩を作っている。泥溜まりの上
を埋め尽くすかのように、広範囲に並べられた竹の棒を見渡すのも壮観だ。労働力さえあ
れば塩ができる典型例のひとつがこのブルドックウだろう。


北カリマンタン州ヌヌカン県のクラヤン郡はマレーシアのサバ州サラワク州の両方と国境
を接し、またブルネイダルッサラムにもほど近い位置にある。そこは海からまったく離れ
たカリマンタン島中央部の山の中だ。そんな場所に塩水が湧いて出て来る。

地元民はもう何十年も前から山の中で製塩を行ってきた。住宅地区からだいぶ離れた山の
上に塩の家と呼ばれる大きな高床式の建物が作られている。ひとびとはグループに分かれ
てその塩の家にやってくると、24時間交替で働くのだ。

建物の外には塩水を引き込んだ水槽がふたつ作られている。製塩場には大きい炉が設けら
れて、その上に三つの金属製大型容器が置かれている。その容器に塩水を入れて下から加
熱するのである。

容器の水が蒸発して塩の結晶が残ると、それはすぐに集められて屋外で乾燥させる。製品
は1キロ入りプラ袋に入れ、また別に一部の塩は竹筒に入れて焼き塩にする。焼き塩がで
きると竹筒から出してロンタル葉で包む。焼き塩のほうが高く売れるのだ。このクラヤン
産の山塩はマレーシアやブルネイにまで送られている。[ 続く ]