「奴隷から王に(7)」(2023年08月16日)

ウントゥン・スロパティ盗賊団は一転してタンジュンプラ要塞駐屯軍に所属し、オランダ
式の軍事訓練を受けて優れた戦闘部隊に変身した。それを指揮するウントゥンには少尉の
階級が与えられた。ウントゥンは自分の忠実さをオランダ人に認めてもらいたいために、
軍務の遂行に励んだ。オランダ人と接触するときでも、かれらの言いなりになって良き弟
分と遇されるように努めていた。オランダ人の気に入られる人間になることがその時期の
かれの目標だったにちがいあるまい。

タンジュンプラに誕生したこの「プリブミ士官に指揮されたVOC軍部隊」はパゲランプ
ルバヤが要求した内容にぴったりではないか。


パゲランプルバヤを連行して来る命令を受けて、ウントゥンの部隊はカラワンからおよそ
百数十キロの行程にあるグデ山系に向けてタンジュンプラ要塞を出た。かれらは山中で密
林の中を抜け、道なき道をたどってついにパゲランプルバヤの居所を探し当てた。パゲラ
ンプルバヤは迎えに来たウントゥンの部隊に身を委ねてタンジュンプラへの道に足を踏み
出す。ところが、タンジュンプラに戻る途中で別のVOC軍部隊がかれらの行く手を遮っ
たのだ。ファンドリッヒ・クフェラーの指揮する部隊が獲物を横取りして手柄にしようと
したのである。

オランダ人に強要されたウントゥンは仕方なくパゲランプルバヤとその家族一同を引き渡
した。横取り者はウントゥンが逃亡奴隷であるという弱みをことさら大げさに言い立て、
しかも白人社会における白人上位をかさにきてそれを行ったのだろう。しかしウントゥン
にあったのは、スザンナとの人生のためにオランダ人に気に入られてかれらに仲間扱いし
てもらおうとする弱みだったのだが。

ともあれ、横取り者がパゲランプルバヤと家族たちをまるで動物のように手荒に扱う様子
を見て、ウントゥンの怒りが炸裂した。1684年1月28日、ウントゥンの部隊はチカ
ロン川でクフェラー部隊に襲いかかり、20人のオランダ人の死体が後に残された。

そのできごとのために、ウントゥン部隊がパゲランプルバヤをタンジュンプラに護送する
ことができなくなった。そのとき、パゲランプルバヤの妻のひとりでKartasura王宮出身
のラデンアユグシッ・クスモが自分を実家に送るようウントゥンに依頼したのだ。グシッ
・クスモはカルトスロの王族であるパティ、ヌランクスモの娘だった。ニコリナ・スロー
トは小説の中でヌランクスモをアミラン・クスモと呼んでいる。ウントゥンとかれに従う
部下たちはカルトスロを目指すことにした。パゲランプルバヤとかれの他の家族はタンジ
ュンプラ目指して進んで行った。


グシッ・クスモはクフェラー部隊が出現してから起こったできごとをつぶさに目にし、ウ
ントゥンの複雑な行動に疑問を抱いた。最初はオランダ人の言いなりになる腑抜けのプリ
ブミ士官と思ってかの女はウントゥンを軽蔑した。グシッ・クスモは筋金入りのオランダ
嫌いだったのだから。

ところが捕虜を手荒に扱うオランダ人の態度によってウントゥンの姿勢が一変した。だっ
たらどうして最初からもっと突っぱねようとしなかったのだろうか?カルトスロを目指す
旅の中でウントゥンという人物の人間性に触れれば触れるほど、グシッ・クスモの心中に
謎が膨らんでいった。ウントゥンのような知性とバランス感覚に優れた男がどうしてオラ
ンダ人の前でそれほどまでに弱気になるのだろうか。

オランダ人に憧れてオランダ人になりたがっているプリブミ?そんな姿勢は間違っている
し、そんな考えで人生を送っているこの男は間違った人生を生きることになる。カルトス
ロ目指して進む旅の中で、グシッ・クスモはウントゥンの人柄に触れて恋に落ちてしまっ
たようだ。自分がこの男の人生を正しい道に向かわせなければならない。そのときグシッ
・クスモは自分の運命をそこに見たのではあるまいか。自分のこの人生はこの男のための
ものであったのだと。[ 続く ]