「クリピッとクルプッ(6)」(2023年08月31日)

トゥンタン村のある生産者は大豆のクルプッを日々生産している。クルプックドゥライは
タピオカ粉・小麦粉・大豆・ブンブで作られる。100キロのクルプックドゥライのドウ
は小麦粉28キロ、タピオカ粉52キロ、大豆20キロで構成されている。それが水で練
られ、できたドウは蒸し器で蒸される。

蒸し器の中に容器に置いたドウが積み重ねられる。大きい蒸し器なら18個の容器が収容
できる。蒸し器のふたはプラシートが使われ、その膨らみ具合で蒸気の強さを測定する。
シートは適度な膨らみ方が持続しなければならない。シートが中に垂れ下がったら、それ
は火が弱すぎることを意味している。シートが過度の膨らみ方を示す場合、シートに小さ
い穴をあけて蒸気の一部を逃がしてやる方法で調節が行われる。

蒸しあがったら冷まし、翌日午前3時半ごろから薄片に切る作業が始まる。薄片にされた
生クルプッは天日乾燥させるために屋外に並べられる。竹で編んだウィディッと呼ばれる
板の上に生クルプッの薄片が百数十枚びっしりと並べられるのだ。生産者はだいたい毎日、
100個くらいウィディッを使う。

太陽がカッと照り付ける日なら、昼ごろから袋詰め作業が開始できる。しかし雲が多かっ
たり、ましてや雨季になると、日干し作業がたいへんな仕事になる。特に雨季に雨が降り
続くと、大豆というのはカビの生えやすい食材だから大豆にカビが生える。そのために食
用油を滲みこませた布で生クルプッを一枚一枚こすってカビ落としをする作業が加わって
来る。


その日、大豆生産者のひとりがブランド名の印刷された5キロ入りプラ袋に製品を詰める
作業をしていた。毎日やってくる集荷人にかれは百袋を引き渡すことになっている。そろ
そろやってくる時間だというので、かれの手の動きは速まっている。

集荷人はボックストラックでやってきて、村内の取引のある家々を回って製品を集め、ジ
ャカルタに運ぶ。袋に書かれているブランド名はジャカルタの流通業者のブランドであり、
生産者のブランドではない。トゥンタンがクルプッの生産基地になった1950年代ごろ
からこのシステムが始まり、今では主流をなしている。トゥンタンで生産されるクルプッ
の大部分は流通業者の下請け製品になっているということだ。

他の地方では多くの生産者が地元一円の商店に卸販売し、消費者の声を聴きたいと思えば
それも可能なスタイルの事業を行っているのに反して、トゥンタンの多くの生産者は市場
との接触を持っていない。かれらはただ生産し、マーケティングは他人が行う。トゥンタ
ンにはおよそ百軒のクルプッ生産者がおり、その四分の一が自己ブランドで製造販売を行
っている一方、残る四分の三が流通業者の買い取りを事業の柱にしている。


とは言っても、流通業者の下請けになっている生産者が流通業者に100%従属しまた依
存しているということでは決してない。ある流通業者が生産量をすべて引き取らないなら、
生産者は残る量を別の流通業者に売り渡す。そうなると、X流通業者のXブランドとZ流
通業者のZブランドの中身が同一生産者の作った同じ製品になるということも起こり得る。
プライシングは各流通業者の手中にあるのだから、市場の小売価格が違ってくるほうが当
然だろう。

通常、この種の小売品にはブランド名と共に産地名が印刷されるものだが、トゥンタン村
の生産者が製品を詰める袋には産地名が書かれていない。流通業者にとっては、自分の商
品を下請け製造した生産者の所在が秘密になっているほうが安全なのだろう。その生産者
がどこにいるのかという情報が世間に筒抜けになれば、別の流通業者が容易にその生産者
に働きかけることが可能になる。そんなことが起これば、従来行われていた取引関係に乱
れが生じることになりかねない。製品の買い上げ価格が上がったり、欲しい数量を生産者
が満たせなくなると自分のビジネスにとって不利益になるのは明白だ。[ 続く ]