「クリピッとクルプッ(8)」(2023年09月04日)

この鶏足のクルプッは1994年にロンボッで既に先例が作られている。ロンボッで有名
な料理のひとつにayam taliwangあるいはayam bakar taliwangという名前のものがある。
タリワンというのは地名であり、ロンボッ島の東に浮かぶスンバワ島の西端の町がタリワ
ンだ。多分タリワンの名物料理をタリワンのひとびとがロンボッに持ってきてロンボッに
定着させたのではないかと思われる。

ロンボッで人気のあるアヤムタリワンはたいてい地鶏を使っているが、店内メニューの中
のチェケルの需要はたいして多くないから、頭やチェケルはたくさん残る。毎日2百〜3
百羽を店で消費していれば、かなりの数のチェケルが廃棄物になる。それをゴミとして捨
てるにもまた手間がかかるし、経済性も持っているのだから、もったいない。

で、そんなワルン店主が廃物利用を考えて、チェケルを粉砕してクルプッを作った。店主
はその生産に20人を雇い、製品をマタラム市や周辺地域のスーパーやミニマーケットに
卸したところ、良好な売れ行きを示したそうだ。

    
東ジャワ州モジョクルト県のクマサンタニ村はかつてkerupuk samilerが村の名物になっ
ていた。サミレルの意味が不明なのだが地元のひとびとはそれをキャッサバの同義語のよ
うにして使っているようだ。素材はシンコンの粉が使われ、それに塩とすりおろしニンニ
クとニラまたはネギの葉のみじん切りが混ぜ込まれてドウにされる。

油を敷いたバナナ葉の上にこのドウを直径30センチくらいの円形に、厚くならないよう
にして乗せ、それを蒸し器に入れてしばらく蒸す。それからバナナ葉を外して平ざるに置
き、乾燥させる。乾燥したら少量の油を熱してドウを伸ばしながら膨らませるとできあが
る。

クルプッサミレルはたいへん薄くてクリスピーだから、口中で容易に砕かれてシンコンの
旨味が広がる。たいへん廉価に作られるため低経済層も購入しやすく、往時はとても人気
の高いおやつになっていた。

2012年のコンパス紙記事によれば、クマサンタニ村の生産者の多くは需要の減少によ
って廃業してしまったが、いまだに作り続けている家がいくつもある。そのうちの一軒で
ある主婦のスリガさんは15年前にクルプッサミレル作りを始めたそうだ。

かの女は夫と子供に手伝ってもらって、1日に1200枚のクルプッサミレルを作る。そ
れを作るのにシンコン芋50キロを使う。シンコンはキロ当たり1200ルピア、製品に
なったサミレルは1枚100ルピアで販売する。そこから上がる利益で一家は毎日の生活
をまかない、子供を中学校までやった。

クマサンタニ村でクルプッサミレルの生産が盛んになったのは1997年だったとご主人
のスヘンドラさんは語る。2000年にピークを迎え、そのあと下降傾向に入ったために
廃業した生産者もあるが、まだ75軒が生き残っているそうだ。土地を持たない小作農、
つまり農業労働者にとっては、クルプッサミレル作りは高い確率で堅実に収入が得られる
仕事になることから、農作業に出るよりもクルプッ作りにいそしむのを選択する家庭も少
なくない。

スリガは毎朝午前3時に起きてクルプッサミレル作りを始める。ドウを蒸し終えたら、す
ぐに乾かさなければいけない。太陽が出れば、一日天日干しするだけで十分だ。しかし雨
が多い時期は乾燥工程に苦労が多い。

クルプッサミレル生産者たちはたいへん質素な暮らしをしている。毎日白飯を食べること
はできても、おかずは塩魚・豆腐・テンペなどで済ませている。鶏肉を買えるのはお金に
余裕ができた日だけだ。ジャワに生まれた伝統食品を社会から消えないように伝え続けて
いるひとびとはそんな暮らしをしているのである。[ 続く ]