「クリピッとクルプッ(9)」(2023年09月05日)

南スマトラのパレンバンが発祥地とされているクンプランがどうやら現代語義に従ったク
ルプッという名称を持つ食べ物の起源のようだ。クンプランをクレンパンkelempangとい
う名前で呼ぶひともいる。パレンバンと言えばpempekという食べ物がすぐに思い出される。
クンプランは何となくペンペッとの類似性を感じさせる食べ物という印象を受ける。

ペンペッは大型川魚のブリダの肉をすり身にし、それに卵やおろしニンニク・塩・調味料
と共にタピオカ粉を加えて成形して茹でたものだ。一方のクンプランは、ブリダの肉のす
り身にタピオカ粉あるいはサゴ粉と他の調味料を混ぜ、それを乾燥させて油で揚げたもの
になる。揚げる代わりに火で焙ったクンプランもあり、それはlidah badakという異名で
も呼ばれている。

ところで、パレンバン人の中にタピオカ粉をサゴ粉と呼ぶひとがいて、材料の話の中にサ
ゴ粉という言葉が出て来ると、それが本当のサゴ粉なのかタピオカ粉のことなのかが分か
らなくなる。本論でもインドネシア語原文の中にサゴ粉と書かれていれば、筆者はサゴ粉
と日本語訳せざるを得ないので、その点についてはご容赦願いたいと存じます。


ペンペッもクンプランも、元々は伝統的にブリダ魚が使われていたのだが、この魚は昨今、
人間の前にほとんどその姿を現わさないほど減少してしまい、ついに保護動物に指定され
てしまった。そのためにクンプランやペンペッに使われる魚肉は他の川魚あるいは海産魚
が普通になっている。西風の季節には海の魚があまり獲れないので雷魚の一種であるガブ
ス魚ikan gabusをメインにして川魚が使われ、雨季になると川魚が取りにくくなるのでさ
わら魚を主体に海の魚が使われる。

ペンペッもクンプランも、優良品は魚のすり身とタピオカ粉が一対一の構成比になるのだ
が、二級品は一対二の比率にされる。もっと下を見ればきりがない。安物ともなると魚は
イワシが使われ、すり身と粉の比率は一対五にまで落とされる。


クンプランの作り方はまず魚肉をすり身にし、sagu matangと呼ばれる、タピオカ粉と塩
を湯冷ましで練ったものと合わせる。そのドウを揉んだり叩いたりして、稠密で固いドウ
に練り上げる。このプロセスが作業者の熟練と才覚を要するものになっていて、だれにで
もうまくやりおおせるものではない。このプロセスがうまく行われなかったクンプランは
適正な膨らみ方をせず、また味も劣ったものになる。ペンペッになくてクンプランだけが
持つ製法の難しさがこれだそうだ。

ドウは妥当なサイズに丸められて一度茹でられる。茹で上がったものはまる一日天日干し
されてから薄片に切られる。最後に薄片の状態でまた二〜三日間天日干しされて、乾燥し
きったものが製品として販売されるのである。製品の生クンプランはおよそ6ヵ月間、日
持ちする。

クンプランの調理に際しては、鍋をふたつ用意しなければならない。どちらの鍋にも同じ
油を入れるが、ひとつの鍋は油をあまり高温にしない。生クンプランは先にその鍋に入れ
てゆっくりと膨らませる。その鍋でクンプランが膨らみ始めたら、すぐにもうひとつの鍋
の熱くしてある油に移して完全に膨らませるのである。


ペンペッという食べ物の起源については、1880年ごろ、籠いっぱいのペンペッを担い
だ物売りがパレンバンの住宅地を徒歩で売り歩いていたという記録があり、かなり古い昔
から製造販売されていたようだ。クンプランが世の中に出現したのはいつごろだったのだ
ろうか?[ 続く ]