「クリピッとクルプッ(12)」(2023年09月08日)

バンカ島で食べるオタコタッやペンペッには薄めのサンバルトラシやサンバルタウチョが
添えられる。パレンバン名物のチュコcukoはバンカ島に登場しないようだ。チュコの味を
求めてパレンバンに向かう観光客もあれば、さわらのクルプッ・オタコタッ・ペンペッを
求めてブリニュにやってくる観光客もいる。

ブリニュの生産者は観光客を歓迎し、製造工程を見学したい客を迎え入れて見せてくれる
そうで、バンカ県行政も観光産業振興のためにブリニュの生産者を大事にしているという
話が語られている。


上述のクンプランと名前のよく似ているのが東カリマンタンのamplangだ。魚肉のすり身
と粉を混ぜたものを成形して油で揚げるところなどそっくり。おまけに魚肉はどちらもブ
リダ魚が使われていたものの、今ではアンプランもブリダ魚が使われなくなって、代わり
にさわら魚やガブス魚が使われているところまでうりふたつ。

ただしアンプランは形状が薄板でなくて立体になっており、見た目に大きい違いがある。
アンプランはサマリンダが発祥地であり、それが東カリマンタンからマレーシアのサバに
まで広がって、各地でボリボリと食べられている。このアンプランもクルプッの一種であ
るため、インドネシア語ではkerupuk amplangと呼ばれることが多い。作り方の一例は次
の通り。

魚のすり身をまず作る。魚肉と卵・ニンニク・塩・砂糖・ベーキングパウダーなどをブレ
ンダーで混ぜ、容器に移してから魚肉の2倍量のタピオカ粉を少しずつ混ぜ込んでドウを
作る。ドウを適量取って板の上で好みの形に成形し、食べやすいサイズに切る。十分な量
の油を中火で熱し、切ったものを入れ、互いにくっつかないようにして揚げる。熱せられ
たアンプランの色が変わってきたら弱火にして全体を均一に揚げる。油で揚げる作業は3
0分から40分じっくりと時間をかけて行う。

天日干し乾燥の工程がないので、一般のクルプッよりもはるかに作りやすく、一般家庭で
も容易に作れるもののようだ。アンプランがいつごろからサマリンダで作られ始めたのか
よく分からないのだが、東カリマンタンの博物誌を記した書物には第二次大戦前から作ら
れていたという記述が見られる。

サマリンダでは、アンプラン作りは女が行うものと相場が決まっているそうだ。男が行う
のは魚の身を外すところまで。そこからあとの作業は女でなければできません、とある女
性生産者が語っている。確かに手でドウをこねて、そのときに混じっている小骨を取り出
すような細かい仕事はカリマンタンの男たちに向いていないのかもしれない。ただまあ、
これは社会慣習として作り上げられた作法なのだろうから、カリマンタンの男たちに緻密
な作業はできないなどと言う気はわたしに毛頭ないことをお断りしておきたい。


このアンプランの中に、一方の端を動物の爪のような湾曲して尖った形状にしたものがあ
り、それはkuku macan(トラの爪)と一般に呼ばれている。このトラの爪を作る場合は上
のようにして作ったドウを成形型に入れて形作る。いまやサマリンダの名物になったトラ
の爪はあちこちの店で販売されている。

2004年のコンパス紙記事によれば、トラの爪を販売している店は普通、店の裏や家の
奥で自家製造しているのだそうだ。量産品でないため、売っている店によって味が違って
いる。生産者がそれぞれ「オラが味」を主張するのだろう。そうなれば、何軒かはしごし
て食べくらべてみる必要があるかもしれない。

言うまでもなく、各生産者は自分のレシピを隠す。しかし揚げあがった製品の色で味を推
し量ることもできる。色が白っぽいとニンニクたっぷりなのだそうだ。赤っぽければニン
ニクの量はそこそこだということになる。[ 続く ]