「クリピッとクルプッ(18)」(2023年09月18日) ヤム芋の仲間に属す学名Dioscorea hispidaはインドネシアでgadungと呼ばれている。塊 根が食用になるが、フレッシュな状態ではシアン化水素が含まれているので毒性があるた め、食べる前に毒抜きをしなければならない。東ジャワ州パスルアンに住むハディ・プル ノモさんはガドンでクリピッを作り、それがヒットした。 東ジャワでガドンは水田や畑の垣根にするのに使われる植物であり、二年育てばその塊根 を収穫して食用にできるという一石二鳥の役に立つ。それでクリピッを作る場合は、収穫 した塊根を水洗いして皮をむき、薄切りにする。その細片を木灰と塩を混ぜたもので包み、 24時間置く。そのあと、茹でてから日干しする。乾燥したらもう一度茹で、塩とニンニ クの汁に二昼夜漬ける。そして最後に油で揚げる。その間、8日もかかるという話だ。そ うすることによって、白く旨くクリスピーなクリピッができあがる。 その加工処理はガドンの場合に特に重要であり、それがいい加減に行われると製品は黄色 くて脆いものになり、毒性が残るとめまいや頭痛などの症状を引き起こす可能性が高い。 ハディは原料のガドンをパスルアンとマランの村々から調達している。買値は100キロ で6.5万ルピア。100キロの原料から製品が20キロ作られる。いわゆるレンデメン という表現をすると、レンデメン20%ということになる。 できた調理済みクリピッをハディはひと月に4百キロ、生クリピッ状態のものも数百キロ 販売している。販売価格は調理済みがキロ3.5万ルピア、生だと1.8万ルピア。調理 済みは200グラム入りと100グラム入りのプラ袋に包装して出荷される。価格はそれ ぞれ7千ルピアと3千5百ルピアだ。それらの製品はマラン・スラバヤ・パスルアン・バ リなどの土産物店で販売されている。 ジャワ語にblonyoというサンスクリット語源の単語がある。ジャワ語のブロニョはサンス クリット語の「こする、撫でる」の意味で使われているが、サンスクリット語には他に基 盤や受け皿の意味もある。 blonyoという言葉だけでネット検索するとloro blonyoの形でばかり出て来る。画像検索 しても同様だが、かなり下の方にやっと食材のブロニョが出現する。ロロブロニョという のはジャワの盛装で座っている男女一対の木像のことだ。新郎新婦を意味しており、これ を飾ることが子孫継続一家繁栄の象徴になっている。 ジャワ人はある海産生物にブロニョという名前を付けた。それに関する情報をネット内で 探し求めたが、明快な解説は得られなかった。インドネシア語でこの生き物はterungと呼 ばれているという情報があり、更に海産生物のトゥルンとはteripang putih(白ナマコ) のことだという情報も得られたものの、それらの画像は別物だった。トゥルンはいわゆる ナマコ型をしていないのだ。 体形は球形に近く、多分そのために普通のナマコがtimun laut(海キュウリ)と呼ばれる のに対してterung laut(海ナス)と呼ばれたのかもしれない。えっ、ナスもキュウリも よく似た形だって?スンダ人のlalapに必ず付いてくるterong gelatik/terong bulatを思 い出していただきたい。どうやら海のブロニョにはそのイメージがかぶせられたようだ。 ちょっと横滑りするが、インドネシア語のナスにはterongとterungのふたつの言葉がある。 これが単にオとウのバリエーションだと思ったら大間違い。前者はテロン後者はトゥルン という発音になっていて、ほとんど派生関係の印象がない。[ 続く ]