「クリピッとクルプッ(19)」(2023年09月19日)

トゥルンの解説によると、この生物は深さ15から100メートルくらいの平坦な海底に
生息しており、浅い泥の環境でよく繁殖しているのだそうだ。このトゥルン別名ブロニョ
の産地はスラバヤを中心にして北のグルシッやバンカランなどジャワ海に面した海岸部か
ら、南はマドゥラ海峡に面するシドアルジョの海岸部まで広範囲に及んでいる。そこに住
む数十万人の漁民の一部がブロニョを海底から採集してくる。


グルシッにはrujak blonyoという特産料理があり、ブロニョが生食される。動画を探して
ご覧になればお解りのように、生きているブロニョが皿の上で動いている姿を見ることが
できる。海底の泥の中でうごめいていたヤツを生食するのだから、懇切丁寧にきれいにし
てもらわなければならない。つまり食卓に出て来るブロニョは生でさえ相当に手がかかっ
たものであるため、決してお安い食べ物になっていない。おまけに季節性の生き物だそう
だから、そう頻繁にどこででも売られているものでもないようだ。

このブロニョもクルプッにされている。ところがkerupuk blonyoという名前で呼ばれてい
るにもかかわらず、製品はブロニョの原形の形を保っていて、ドウに混ぜ込まれたもので
はないのである。つまり本論頭書の定義によればこれはクリピッに区分されるべきもので
あって、クルプッではないということになる。

ちなみにkeripik blonyoで画像検察したところ、kerupuk blonyoで目にしたものと瓜二つ
の状態のものが登場した。本当はクリピッなのだがクルプッと呼ばれているもののひとつ
がこれだったことが明らかになったわけだ。


マドゥラ島バンカラン県ソチャ郡ジュガニャル村は漁村だ。この村に住むスティナさんが
ある日の午後、夫のスプリヤディさんが海から採って来た数百匹のブロニョをきれいにし
ていた。これは2013年9月のコンパス紙記事だ。

ブロニョにドロッとへばりついている灰色の泥をスティナは素早い手さばきでしっかりと
取り除いている。家の表ではスプリヤディが火を焚いて、ナマコを大鍋で茹でている。ス
プリヤディは昨夜から朝まで、海に出て大型フォークで海底をかき混ぜ続けていた。そこ
がナマコとブロニョの宝庫なのだ。

一回出漁すると20万ルピアの経費がかかる。獲物が得られる保証などだれもしてくれな
い。運が悪いとほんのわずかな獲物が経費の見返りになるだけだが、運がよければ大漁に
なる。獲物の宝庫はどこかにあり、しかも海底の水流によって宝庫が移動する。漁師は勘
に頼って場所を決めているだけだとスプリヤディは語る。


クルプットゥルンを1キロ作るために、生トゥルンは最低で27キロも必要になる。そし
てトゥルンの加工はたいへんに手間のかかる作業なのだ。トゥルンの体には太さ5ミリほ
どのジャロッと呼ばれる繊維質の部分があり、それが高く売れるためにそのジャロッを抜
き取る手間が加わる。まずトゥルンを洗浄し、茹で、皮をひっくり返してジャロッを取り
去り、干してから油で揚げる。揚げるプロセスは一度砂を混ぜて行い、更に熱い油だけで
揚げる二段構えになる。

揚げるプロセスが終わったブロニョはキロ当たり10万ルピア。揚げる前の状態になった
ジャロッはキロ13万ルピア、揚げるプロセスを終えたジャロッはキロ25万ルピア。し
かしジャロッを1キロ集めるにはたいへんな時間がかかるだろう。商品としてのブロニョ
が1キロ得られたところで、そこからどれほどのジャロッが得られるのだろうか?

スプリヤディとスティナの夫婦はそんな仕事を毎日行って週に100万ルピアを稼ぎ出し
ている。それで日々の生計を立て、四人の子供を育ててきた。長男は船員になって国際航
路の船で働いている。もうふたりは大学生、そして末っ子が高校生だ。[ 続く ]