「中国製品はなぜ廉い?(3)」(2023年09月20日)

「安かろう悪かろうのメイドインチャイナ」が各国に与えた影響は、その国の低経済市場
のサイズによって違っていた。国民の所得が小さい国ほど低経済消費市場のサイズは比率
が高まり、輸入される中国産廉価商品が国内製造産業に与える打撃は大きいものになる。

それが国の経済構造を揺さぶるほどにでもなれば、為政者は中国産品を、ひいては中国が
行っている廉価低品質商品の輸出攻勢をどのように見なすだろうか。経済で他国を服従さ
せて実質的に自分の属国にしてしまうのは軍事力でそうするほどの悪事ではない、という
観念が本当に正しいのかどうか。

その国の製造産業が作る製品の品質とたいして違わないレベルの中国製品が輸入され、国
内市場で国産品の半額程度の値段で売られたなら、国内製造会社は生き残る道を探さなけ
ればならず、その製造業界への国内投資も国民の事業意欲も消滅してしまうにちがいある
まい。廉い中国製品が国内の製造産業を滅ぼしつつある。


インドネシアでは、イデオロギーでもみくちゃにされていたオルラ期の改善を目指すオル
バ時代が到来して微笑み将軍スハルトによる経済開発の幕が切って落とされた。そのスハ
ルトレジームが幕を閉じてレフォルマシ時代が到来してから、オルバの諸悪が糾弾される
中に面白い論説が登場した。

東側陣営寄りのスカルノをお払い箱にして西側陣営の傘の下で経済を第一優先する強国を
東南アジアに作る構想が英国をしのいで世界文明の頂点にのし上がった米国首脳部によっ
て組まれ、CIAの謀略によって9.30事件とそれに続く赤狩りのキリングフィールド
がインドネシアに起こったという論がインドネシア国内に流れたのである。東西冷戦下の
冷たい大量虐殺だった。しかし程なく、マスコミのメインストリームからそのテーマは消
えてしまった。言わずもがなの共通知識なのだから、あらためて騒ぐほどのことではない
という感触だったのだろうか?

ともあれ、そのスハルト時代到来のおかげで日本の製造業界は、韓国と中国で痛い目にあ
わされたあとの海外生産拠点の獲得に大きな便宜を得た。日本企業の進出がなければスハ
ルトのインドネシアがあれほどの経済発展を達成できたかどうか疑問だし、そうなれば米
国首脳部の目論見もたいした外見上の評価を得ることができず、東南アジア情勢は異なる
内容と形態に向かったかもしれない。


日本を筆頭にして諸外国から種々の製造産業がスハルトのインドネシアに進出した。大き
い人口を有する国内市場は進出した外国系企業にとってたいへん魅力的だった。その流れ
が一段落すると、1980年代に入って輸出にドライブがかかり始めた。その期待に応え
て、合板・繊維・衣料・履物がインドネシアの四大優良輸出品になった。輸出品は概して、
高品質で高額な商品だった。輸出品として生産されたもので品質管理ではねられた品物が
国内の店でキズモノ良品として割引販売されていたが、それでも国内向け商品より高い値
付けになっていた。

視点を変えるなら、国内向け商品がいかに低価格重視で生産されていたかがそこから判る
だろう。特に衣料品と靴は消費者の日用必需品だったために、輸出クオリティという言葉
が高品質の代名詞にされた。

ともあれ、オルバ期に始まった繊維衣料品生産が長期にわたってインドネシアの製造産業
界で花形の地位にあったというのに、後追い新興国の追撃で輸出市場における栄光に影が
さすようになり、それに追い打ちをかけるかのようにして中国産の超廉価商品が今度は国
内市場まで奪い始めたのである。


CNBCインドネシアが2023年6月に流したニュースの中に、インドネシアの繊維業
界が崩壊の危機に直面しているのは中国産品のせいだという記事があった。国内向け衣料
品製造会社の多くが存亡の危機に立たされているのだ。[ 続く ]