「中国製品はなぜ廉い?(6)」(2023年09月25日)

廉価中国産品の謎については、昔から謎解きが行われてきた。2004年に中国研究セン
ター長のウィボウォ氏がコンパス紙に寄稿した論説記事にもそのメカニズムが分析されて
いる。ウィボウォ氏は次のような内容を論じている。

衣料品業界で活動している友人によれば、インドネシア国内市場で販売されている衣料品
はたいていが中国産だそうだ。ラベルなしでインドネシアに送られてきて、インドネシア
の生産者がラベルだけを付けて市場に流している。一見まるで国産ブランドが中国に下請
け生産させているように見えるが、立場が反対になっている。生産者が生産しないで輸入
品販売者になっているのは価格がまったく太刀打ちできないからだ。国内生産しようとす
ると材料コストが高く、縫製人件費が高く、中国製品と市場でぶつかり合えば勝ち目がな
い。中国製を輸入し、あたかも国産品のようにして販売するほうが儲かる。

医薬品業界も似たようなことをしている。インドネシアで自分で生産するよりも、中国産
を輸入して国内で販売するほうがはるかに合理的なのだ。たいへんな手間暇をかけて自分
で生産しても、妥当な利益を得て生産を続けられるかどうかわからない。それよりも輸入
品を市場に流すほうが、簡単にしかも確実に利益が得られる。インドネシアで生産すれば
コストが高い。そんなものをエネルギーをかけて作っても、中国産の廉い商品に価格で負
けてしまう。

オートバイだってそうだ。21世紀に入ってから、複数のブランドでmocinがインドネシ
アに上陸した。モチンとはmotor cinaの短縮語だ。既に何十年も前からインドネシア市場
を牛耳っていた日本メーカーも慌てた。なにしろ、同じようなクラスの製品の市場価格に
2〜3百万ルピアの差がついているのだから。日本のメーカーによって販売網・サービス
網がエスタブリッシュされていたインドネシア市場への中国製廉価商品の殴り込みに、メ
ーカーをはじめとして膨大なビジネスネットワークに関わっているインドネシア人がアレ
ルギーを起こした。日本人が頼んだのか煽ったのかどうかはっきりしたことはわからない
ものの、インドネシア人からのモチン排斥の大合唱が起こり、挙句の果てにサービス網確
立がモチン側の弱点になったことから、モチンは数年後に撤退することになったのだが。


インドネシアの国内市場を眺めて見るかぎり中国製の廉価な産品が至るところで見受けら
れることから、インドネシアの対中国貿易は輸入超過だろうとだれしも推測するわけだが、
中国の輸出入統計によれば、1996年以来対インドネシア貿易は中国側の輸入超過が示
されている。在ジャカルタ中国大使館通商アタシェは、貿易バランスの均衡を図るために
インドネシア向け輸出をもっと増やす意向だとウィボウォ氏に語った。

なんでそんなことになるのか?だれもがすぐに違法輸入、つまり密輸を頭に浮かべるにち
がいあるまい。中国からどこかの国に輸出された物品がその国を素通りしてインドネシア
の海岸まで運ばれてくる。たいてい漁船に偽装した小船でインドネシアの海岸に到着する
のが普通だ。税関のない海岸で浜辺に降ろされると、何台ものトラックが闇の中から現れ
て貨物を荷台に載せ、街はずれの倉庫に運び込む。どこの国の貿易統計にも掲載されない
まま、現物がインドネシア市場に忽然と出現するのである。

インドネシアではそんなシーンが常識になっていて、中国に限らず、世界中の物品が忽然
と姿を現わすのはまるでタイムマシーンに乗ってやってくるような趣を感じさせてくれる。
この仕組みに麻薬非合法薬物やテロリスト向けの銃砲類も乗ってくるのだ。しかしながら、
商業目的の物品の場合、その仕組みによって市場価格が廉くなるのは関税やその他輸入税
の分でしかないだろうから、この仕組みを使ったところで市場価格が国産品の半額になる
ようにも思えない。

インドネシア国内の市場で超廉価に販売できるということは、中国の生産者がダンピング
をしているのではないかとウィボウォ氏は通商アタシェに質問した。というのも、199
9年以来中国は長期のデフレに見舞われており、生産品を長期に在庫するよりもコスト割
れでもいいから売り払うほうが経営面でのメリットが大きいことを中国の経営者たちは強
く感じているはずだからだ。しかし、ダンピングはあり得ないと通商アタシェは言下に否
定した。[ 続く ]