「中国製品はなぜ廉い?(7)」(2023年09月26日) ダンピングがなされていないのであれば、製造コストはあの売値より低いことになる。そ れは本当にあり得るのだろうか?なにしろ、インドネシアで販売されている中国産商品の 市場価格を聞いて、中国本土に住んでいる中国人さえもがその廉さに驚いたという話もあ るくらいなのだ。 広州で工場生産の経験を持ったことのあるウィボウォ氏の友人のひとりは、中国の労働者 は適正な扱いを受けていないとかれに語った。中国にはすばらしい労働法規が備えられて いるが、現場では違反だらけだ。一日に8時間以上働くよう強制されるのは平常のことで あり、工場労働者には日曜日も含めて休日などない。そうは言っても、ひと月に2回、休 みがもらえる。法規としての最低賃金も出されているとはいえ、工場マネージャーの従業 員待遇に強制力を持っているわけではない。工場マネージャーは暴君のように、低額の報 酬で従業員をこき使っており、従業員は悲惨な扱いを甘受している。 反抗すれば従業員はすぐに解雇される。失業者がたくさんいるから、代わりの労働力は簡 単に手に入る。中国政府の公式発表によれば失業率は4.2%だそうだが、実態はもっと 大きいと誰もが言う。ある中国政府系サーベイ機関が大都市の失業率は12%あるという データを出したこともある。世銀も2002年に行ったサーベイ結果を明らかにしている。 遼寧省17.7%、黒竜江省15.4%、天津省13.96%、吉林省13.9%、海南 省13.4%などといった数字が並んでおり、それとは別に村落部の失業者数が1.5億 人いるという数字も見られた。 工場マネージャーが従業員を機械のネジのように扱っている背景にその状況が大きく関わ っている。労働者と零細農民の国として発足し、労働者による独裁政党が運営している国 家で、事業経営は労働者のために行われておらず、経営論理は国家設立の理想と異なるロ ジックで動いているように見える。 今の中国は利益志向型経営者にとっての天国になっている。労働組合の干渉なしに従業員 を会社利益のために好きなように働かせることができるのだから。何時間働かせようが、 賃金給与をいくらにしようが、補償金を出そうが出すまいが、工場マネージャーの腕次第 でなんとでもなる。製品の製造コストを切り詰められるだけ切り詰めさせれば、あるロッ トをどこかの国の似たような製造工場でかかっているコストの何分の一かで生産させるこ とも不可能ではないように思われる。そうするためには人件費以外の要素にも特別な配慮 をしなければなるまい。 直接人件費でそんなありさまだ。中国大使館通商アタシェは中国企業のCEOの月給がた いへん低い事実を指摘した。「インドネシアのCEOは月に5千米ドルくらいの所得を得 ているでしょう。中国では1千米ドルくらいが普通ですよ。そうやって中国では物品が廉 価に作られているのです。」 中国は天然資源のあまり豊かでない国だ。少なくとも、インドネシアに比べたら顕著に劣 っていると言えるだろう。たくさんの資源を中国は海外から輸入しなければならない。豊 富な資源を持つインドネシアは、中国にとって格別のターゲットになりうる。インドネシ アの資源を廉価に得るために、インドネシア国内にある弱点を利用すればよいのだ。 インドネシア政府が自国利益のためにさまざまな通商上の規制を設けようとも、法規の文 面通りに実行されているケースは何パーセントにのぼるのだろうか?何百年もかけて連綿 と築き上げられてきた腐敗構造が表面の公共的タテマエと裏面の個人的ホンネの分裂を恒 常的な仕組みに変えてしまった。国に払う金を個人に振り向けてやれば総支出が小さくな る場合にその仕組みを使わない利益志向型ビジネスマンはいないだろう。[ 続く ]