「クリピッとクルプッ(24)」(2023年09月26日)

ンピンムリンジョは調理されたものをそのまま食べるとほろ苦い味がする。それがビール
の相棒にぴったりだと言って好むひとも少なくないようだ。しかしアルコール摂取を禁じ
られている宗徒のひとびとは公にそんなことを言うはずがなく、ただ黙して食べているひ
ともたくさんいる。

クルプッのようにそれを代替して、あるいはクルプッと一緒に、ンピンムリンジョが食事
の飯の友になって皿に載っているケースが多々見受けられるし、汁もの料理の場合はンピ
ンやクルプッがなしには済まないにちがいあるまい。食事の友になるのはたいてい、味付
けのなされていないものになる。

ンピンムリンジョはカルプアッサンジャイのように辣塩甘の味付けがなされたものがおや
つとして市場にたくさん出回っている。味付けされないものはたいてい薄いンピンであり、
味付けされるのは厚目のンピンになっているのが普通だ。味付けされないンピンの中には、
他の豆類や穀物が混ぜ込まれるものもある。


中部ジャワの州都スマラン市の西方90キロほどの距離にバタン県がある。同県のほぼ中
央に位置するリンプン郡が州内最大のンピンムリンジョ生産センターになっている。郡内
の7割の村でンピンムリンジョが生産されているのだ。もちろん県内の他の郡でも生産さ
れており、リンプン郡の独占ということでもない。

2013年のデータになるが、バタン県のムリンジョ作付面積は11.8万ヘクタールで、
ンピンムリンジョの生産量は年間2千5百トン近くにのぼっている。生産者は6,251
軒あって、その1割が大型工場だ。残りはたいていが小規模家内工業であり、たいてい主
婦が生産に携わっている。つまりこの地方の女性たちはみんなンピンムリンジョ作りの技
能を身につけているのである。


ンピンムリンジョ生産は各家庭の生計を支えるひとつの柱になり、家庭によっては生計の
大黒柱になっているところもある。リンプン郡ガリヤン村シグンティン部落に住むミスリ
ヤさん40歳は三児の母だ。かの女は毎日ンピン作りに明け暮れしている。

夫は運転手をしていて、日によっては収入のないことも少なくない。持ち主に一日いくら
という、setoranと呼ばれる借賃を払って車を借り、その車で稼いているのだ。借賃より
大きい収入があがればガソリン代や自分の飲食費を引いた残りを持ち帰って来るが、一日
の上がりがストランより小さければ車の持ち主に対する借金ができる。わたしがンピンを
作らなければうちの釜のふたは開かない、とミスリヤは言う。

家の用事を終えるとミスリヤは毎日、家から近い場所に建てられた1.5メートル四方の
小屋に入りびたる。薪・大鍋・平たい石・金槌の頭などがそこに用意されている。この地
方の小規模なンピンムリンジョ生産者はみんな手作業で、伝統式製法に従って製品を作っ
ているのだ。ムリンジョの実の中のタネの中身を石の上で潰して円盤状の薄板にするので
ある。タネの中身は小さいから、1個でできるンピンムリンジョのサイズは小さい。大き
いサイズを作るには、まず1個を潰して広げ、その上でまた1個を潰して一体化させ、そ
うやって1枚の大きい円盤にしていくのである。

まずムリンジョの実が生ったら収穫して皮をむき、そのまま二日間置いておく。そして素
焼きの土鍋で煎る。そうするとタネを包んでいる硬い外殻が容易に外れる。その煎り加減
がたいへん難しいのだそうだ。「時間で何分などという標準化などできるものではない。
ひとりひとりが経験の中で培った勘に頼って行っていることだ。」とガリヤン村の生産者
たちは語る。

しかしレシピの中には「XX分間煎る」と書いているものもあるし、この煎る工程が金属
鍋に細かい砂を混ぜて行われているところもあるから、全国各地で作られているンピンム
リンジョの製法が一律になっているわけでもなさそうだ。[ 続く ]