「イセン(後)」(2023年10月18日)

匿名のデマ電話をかける者が何も利益を期待していない点を考えてみよう。相手を脅かし
て金をせしめようとするでもなく、憎い相手を怖がらせようというのでもない。有名人に
なってセンセーションを愉しもうというのではなおさらない。イセン行為が汚職やレーシ
ズムや賭博のように世の中に広く拡大している状況を想像して見たらどうか。一般のテロ
よりずっとはるかにわれわれを恐怖で包みこむにちがいあるまい。本人に十分な意識のな
いまま外的環境が個々人を操っている状態の下で行われる、テロを通知する匿名のデマ電
話を法律違反だと判定することができるだろうか。

そのような疑問に関心を持たない法執行者を責めるべきではあるまい。しかしその問題を
軽視するような法学者・心理学者・文化社会学者であってはならないだろう。イセンとは、
することがなくて退屈している人間の悪ふざけ行為でしかないという単純な解釈では済ま
ないのだ。それはもっとも最近の事件、マランのマクドナルドに対して行われた匿名デマ
電話が物語っている。

ジャワポスの表現を借りると「電話テロ」の容疑者Eはまだ若い主婦であり、することが
ないわけでは決してない人間だ。5人の子供がいて、年齢は一番上が8歳、一番下は6ヵ
月。Eが逮捕されて留置所に入れられ、尋問されている間もずっと一番下の子供に授乳を
続けていた。Eは毎日、テンペの揚げ煎餅を売っている。議論の多い反テロ法には、最高
15年の入獄刑が定められているのだ。


ジャカルタの爆弾テロ事件に関するメディア報道にEが影響された結果ではないかとあな
たは思うかもしれないが、Eはテレビを持っておらず、新聞も何ひとつ購読していなかっ
た。かの女はジャカルタの爆弾テロ事件を隣人から聞いて知った。新聞を読まなかったが
ために、5日前に同様の電話テロの容疑者として逮捕されたSと同じ失策を犯したのであ
る。Sは同じ町のホテルリージェントに自宅の電話器からテロ電話を入れた。その電話番
号はテルコムに住所氏名まで登録されてあるのだ。

誤認逮捕はありうるだろうか?尋問の最初から、Eは犯行を否認した。他人がわたしの携
帯電話を借りて行ったのだ、と。尋問が継続されてEの話がしどろもどろになってきたこ
ろ、Eはイセンで行ったことだと自供した。法執行者たちの仕事はそれで一件落着した。
その自供が真実だったと仮定して、その事実、つまりEの自供は文化社会学者にとって検
討の出発点になる。

科学者たちが解答の見つからないラビリンスにいる間、独立宣言記念日を祝おうではない
か。イセンを頻発させる自由もそこに含めて。もちろん、他人に迷惑をかける自由などは
含まれない。[ 完 ]