「タンジドル(13)」(2023年10月18日)

世間の音楽の好みがバリエーションを広げる一方のこの時代、既に辺縁部に追いやられて
しまったタンジドルはサバイバルの道を探さなければならない運命にある。だが老齢に入
ってしまった現メンバーの若返りは思うにまかせない。いくらタンジドル音楽がお気に召
す若者がいたとしても、楽器演奏の才能がフィットしなければメンバーとして使えないの
だ。それが最大の障害になっている。管楽器の演奏能力を身に着けるのは生半可なことで
はない。おまけに苦労して楽器ができるようになったところで、タンジドル楽隊で食って
いくのは今の時代、すでに至難の業になっている。

管楽器のある人生を生きようとするなら、もっと収入の大きい音楽世界に入らなければな
らない。もはや息絶え絶えのタンジドルで稼ぐのは不可能だろう。おまけに音楽の好みが
世代間で変化したから、昔スタイルの吹奏楽隊をカッコイイと思う若者がどれほどいるだ
ろうか。


この楽隊に演奏の注文は多いときでひと月に3〜4回入る。結婚パーティー・割礼祝・行
政高官の就任式典・独立記念日などの催しで会場に生音楽の賑わいを添える仕事だ。ギャ
ラは出演した人数によって2.5百万から6百万ルピアという差がつく。その金額が楽隊
メンバーの全員に分けられる。ティガサウダラの仕事がないとき、メンバーたちはチガン
ジュルやカリサリの別のタンジドルを手伝いに行くこともある。それでも、ひと月の自分
の家庭の生計をタンジドル仕事だけでまかなうことはできない。

サイッのように自分の土地を持っている者は果樹園や借家で収入を確保しているが、そう
でない者は建設現場などで肉体労働をする。それでも生活の金に困ることがときどき起こ
る。そんなとき、かれらは楽隊仲間に頼るのが普通だ。

音楽演奏で食っていくためには、世間に売れる音楽を演奏しなければならない。かつてタ
ンジドルは売れる音楽だったが、今ではダンドゥッが覇者にのし上がった。舞台でタンジ
ドルを演奏しているかれらにダンドゥッ曲のリクエストがかかるのもしょっちゅうだ。必
然的にかれらはダンドゥッ曲をいくつかレバートリーに加え、ダンドゥッを唄える歌手を
連れて行くこともする。しかし本格派ダンドゥッバンドが作り出す雰囲気にはかなわない。
この先、世代交代が進行すれば、タンジドルは忘れ去られるかもしれない。

今でさえ現役のタンジドルメンバーの中に生活に困っている者が何人もいる。しかしかれ
らはタンジドルを捨てようとしない。自分の人生の中に自分の好きなものを持っている人
間の満足感がそうさせているのだろう。

その好きなものが自分の生きるための糧をもたらしてくれるなら言うことはないだろうが、
今のタンジドルにそれを望んでも無理だ。息絶え絶えのタンジドルをそんなかれらが生き
永らえさせているのである。


2014年3月のコンパス紙にサイッ・ネレンさんの記事が出た。やっとその年の初オー
ダーがティガサウダラに舞い込んだので、久方ぶりの本番に備えて練習をしておこうとい
うことになり、サイッはメンバーに集合をかけた。練習の前にかれは楽器置き場のタンジ
ドル楽器の状態をすべてひとりでチェックした。

夕方になって、サイッの自宅の表テラスに8人のメンバーが集まった。若い人の顔が混じ
っている。若者のひとりはかれの息子、他の若者は親戚の子たちだ。かれらはサイッに説
得されてティガサウダラを維持するために吹奏楽器を学び始めた。[ 続く ]