「ヌサンタラのコーヒー(17)」(2023年11月14日) バンドン市内バンチュイ通り。繁華街の一画にコーヒーの香りが強く漂っている場所があ る。51番地にあるアールデコ調の大きい建物はコーヒーの倉庫、工場そして小売販売所 を擁している。1930年にタン・ホウシアンが興した事業所はそろそろ創業百年を迎え る時期に近付いている。事業主の一家がそこで暮らして来た。 午前9時半ごろ、コーヒーを買いに来た客の列が作られはじめた。販売カウンターから少 し奥の所に焙煎炉があり、作業員が焙煎作業を行っている。現在の店主は創業者の子息の ウィディヤプラタマ氏だ。2015年4月にコンパス紙取材班はウィディヤ氏へのインタ ビューを行った。 何トンあるのか正確な量を自分は知らないと語る店主は倉庫に山積みされている袋入りコ ーヒーについてこんな説明をした。 「父の方針に従って、わたしは必ずコーヒー生産農民から直接買うようにしています。こ こに積まれているコーヒーはプリアンガー・ジュンブル・ブンクル・ランプン・トラジャ などの生産農民からだいたい7〜8年前に購入したものです。 農民は豆を摘むと、2週間乾燥させてから当方に送ってきます。当方ではそれを受け取っ た後、家の裏庭で7時間天日乾燥させ、それから倉庫でロブスタは5年、アラビカは8年 間寝かせるのです。その間に含有水分が低下し、酸味が薄まって行きます。その間は必ず 南京袋を使わなければなりません。この天然乾燥プロセスに換気は必須条件なんですから。 オーブン乾燥は行いません。」 長期間寝かせることによって酸味がやわらぎ、コーヒー豆は最高の美味しさを提供するよ うになる。そのプロセスを経ることで百キロの乾燥コーヒー豆は酸味のない80キロの粉 末コーヒーになる。 倉庫に積み上げられたコーヒー袋の中には、長い歳月によって南京袋の縫い目が一部ちぎ れているものも見られる。店主はそれぞれの袋に入っているコーヒー豆の来歴をすべて知 っている。粉末のコーヒーが入っている袋を指差してかれは言った。「それはもう30年 経ってますよ。ブレンドを作る時に1%だけ使っているんです。」 この工場が購入しているコーヒー豆はオーガニック方式で育てられたものだ。焙煎のため の熱源には廃木にされたゴムの木が使われている。灯油を浸したゴムの木を使うだけで、 ガスや灯油など他の熱源は使わない。炉の上に設置された鉄の球体に白い豆が入れられ、 ゴムの木の燃える黄色い炎が鉄の球を焙り、鉄の球を回転させて豆の焼け具合が均一にさ れる。その炎がコーヒーの味を決めるのだと店主は語る。炉の焚口にあるBandoeng 1936 のエンボスが炉の古さを物語っている。 およそ2時間くらいでコーヒーの香ばしい香りが広がり始めた。最新型の焙煎機だと、そ の2時間の作業が15分で終わるそうだ。しかしウィディヤは伝統製法を守っている。そ のやり方がコーヒー豆をもっとも美味しくさせるからだ。美味しいコーヒーを作るために 手間暇をかけるよりも、かかる費用をどんどん抑え込んでコスト効率を良くすることの方 を重要視している生産者がいるのは残念なことだとかれは言う。 アロマコーヒー工場では、すべてが時間を消費する。インスタントに終わるものごとはな い。それが経済合理性から見ればベストでないことをウィディヤ自身も知っている。だが、 かれは自分のコーヒー哲学をこう披露した。「コーヒーというのは瞬間的に喉から腹の中 に入ればそれで終わり、というものではないでしょう。コーヒーはゆっくりとすするもの ですよ」。 [ 続く ]