「ヌサンタラのコーヒー(18)」(2023年11月15日) 近道を通って早く通り抜けよう。それが時間効率を高め、動きの経済性を向上させる。し かしそんな理屈を人間の人生に適用することはできない。自分の人生を短時間のうちに通 り抜けたいと考える人間はまずいないだろう。それぞれの人間が行うさまざまな活動がそ の者の人生を構成するものになる。その活動の経済性という面だけを見て、その活動が自 分の人生の一部を成しているのだという見方を忘れると、その活動は自分の人生から抜け 落ちてしまうのではないだろうか。自分の人生としての時間を使いながら行う活動が自分 の人生を構成しないなら、その人生の価値をいったいどこに求めればよいのか? サムライが剣の道を極めるように、ウィディヤはコーヒーの道を自分の人生の道として歩 んているにちがいあるまい。かれの工場が作るコーヒーはコーヒーを愛するすべてのひと のためのものだ。アロマコーヒーを買いに来るひとは、一回に5キロまでしか売ってもら えない。 「事業は利益を得るための活動です。だからこの事業所では妥当で適切な方法で利益を得 るのをモットーにしています。会社が事業を継続でき、従業員が妥当な暮らしを営むこと ができ、世の中の消費者に妥当な品物を提供できるようにするための利益です。人間はマ テリアリズムだけで生きることができません。生きることの目的はそれではないのです。 バランス豊かに生きることが重要です。誠実さ、清廉潔白、世にあるすべてを認めて受け 入れること。そうやって生きていれば、日々の糧は必ず得られるはずです。」 パジャジャラン大学で経済学を教えているウィディヤは重度障害者保護財団への寄付を励 行している。 アロマコーヒー工場の生産機材はすべて1930年代のテクノロジーを使ったものばかり だ。生産機材ばかりか、オランダ製の古い秤、頑丈に作られた木製の金庫、骨董品なみの 金銭出納器。効率を求めて新テクノロジー生産機材に入れ替えると、必ず味に変化が起こ るだろう。そしてまた、その新規投資の償却のためにコストが上昇する。 昔から世の中に受け入れられ、美味しいという評価を得ている味覚を維持し、廉い価格で その商品を世の中に供給することに生産機材の入れ替えは困難をもたらすにちがいない。 売場では、従業員が顧客に美味しいコーヒーの淹れ方を説明していた。「これは年経た豆 なので、100℃の熱湯を注いでください」。 [ 続く ]