「ヌサンタラのコーヒー(26)」(2023年11月27日)

中部ジャワ州プカロガンPekalongan県南部の山中にソコクンバンSokokembang村ソコクン
バン部落がある。ソコクンバン村はヒンドゥの聖地ディエン高原の北側に位置している。
30戸の家庭で構成されているソコクンバン部落は緑濃い山中の森林が周囲を取り巻いて
いて、森林の中にロブスタコーヒーの木がたくさん散在している。部落民は朝早くから森
に入って熟したコーヒーの実を摘んでくる。

その朝も、住民のひとりタスリさん48歳は朝のコーヒーを飲み終えてからブーツを履き、
鉈を一本腰に差し、南京袋を手にして家を出た。うっすらと霧のたなびく山中に鶏の鳴き
声に混じってオワ猿の遠吠えが流れる。

赤い実をつけたコーヒー木に近付き、作業の邪魔になる雑草を鉈で払うと、タスリは赤い
実をつまみ取って南京袋に入れる。そこでの仕事が終わると、離れた場所にある次の木に
向かう。コーヒー木は自然の中で自然のままに生えている。村民が植えたものもあれば、
だれがいつ植えたのか、あるいはどうやってそこに生えたのかすら分からないものもある。

たとえ村民が苗を植えたものであっても、人間はその成育を大自然に任せている。肥料を
与えたり手を加えるようなことはしない。そんな自然のままに成長した木に生っている実
がかれらの生活の一部を支えているのである。


昔タスリは珍しい鳥を捕獲して収入を得ていた。チュチャッヒジャウ1羽でその当時の百
万ルピアが手に入った。オワ猿を捕まえても大金が入って来る。しかし自然保護思想が喧
伝されるようになって、非合法の野生動物捕獲を行なう部落民がいなくなった。部落民た
ちは自然保護がどういうものであるのかをボランティアの学生や自然保護団体の活動家た
ちから教わり、自分たちを生かしてくれている生活環境を損なうことの愚かさを理解した。

ひとびとは自然と共存する道を歩み出したのだ。そんなかれらにとって野生コーヒーの豆
は重要な換金作物になっている。

部落民は一戸当たり1〜2Haの土地を自分のテリトリーにしていて、その領域に生えてい
るコーヒーの木が各戸の権利になっている。つまりこの部落ではおよそ70Haの土地から
野生コーヒーの実を収穫して来てそれをコーヒー豆にする事業が営まれているのだ。年間
生産量は5百キロに達している。この野生オーガニックコーヒー豆は農園産のものよりも
2〜3割高く売れる。

プカロガンやヨグヤカルタのモダンカフェやワルンコピでソコクンバン産のコーヒー豆を
使うところが増えている。この豆の愛好者はその特徴について、カフェインが強くて味覚
が鋭く、酸味は弱く、独特のフルーツのアロマがあると語っている。


ヒンドゥの聖地ディエン高原の東にトゥマングンがあり、更に東側にアンバラワがある。
スマラン県アンバラワにある第9ヌサンタラ農園会社PTPN IXの所有農園のひとつがアン
バラワとバウェンにまたがって広がる424Haのコーヒー農園だ。バウェン郡Banaranに
あるその農園が中部ジャワで最古参のコーヒー農園のひとつになっている。同社はそこを
最大の事業ポイントにした。その農園にカフェや宿泊施設、そしてアグロ観光ビジネスな
どを持ち込んで事業を多様化させたのである。名付けてKampoeng Kopi Banaran。

このカンプンコピバナランでは自社農園産のコーヒーばかりか近隣のコーヒー栽培農家と
も提携して来場客に提供できるコーヒー豆のバリエーションを広げ、またコーヒー産業の
下流分野に携わっている事業者たちをも誘ってコーヒーの木からカップ一杯のコーヒー飲
料ができるまでの長いプロセスが各ステップで州内最高のものになるよう努めている。こ
の地方で収穫されるコーヒー豆はロブスタ種がメインなので、お勧め品ももちろんロブス
タ種になる。ロブスタファンのわたしには最高の場所だ。[ 続く ]