「ヌサンタラのコーヒー(27)」(2023年11月28日)

わたしが十数年前にジャカルタ〜バリ島間を車で何度も往復したとき、スマランから南下
してソロに向かう街道沿いにカンプンコピバナランのゲートがあり、ときどきそのゲート
をくぐって1時間ほど休憩したことがある。高原の涼風の中で一休みするひなびた場所は
有料自動車道のレストエリアよりもはるかにわたしの好みにあっていた。いつも他のドラ
イブ客で賑わっていたから、それなりに人気のある場所だったようだ。

PTPN IX社はカンプンコピバナランをカフェの商号にし、その名前でカフェチェーンをジ
ャワ島の諸都市に広げる戦略を立てた。どこかの町中でその看板を見かけることがあるか
もしれない。


PTPN IX社のデータによれば、この農園の年間生産量は平均して4百トン前後であり、そ
のうちの8割が輸出されている。輸出先はイタリアと日本がメインを占めていたが、日本
向けは減っているそうだ。

農園のコーヒー木は年間に5〜6.5キロの実をつける。5キロの実から乾燥したコーヒ
ー豆が0.8〜1キロできる。同社はその状態で豆を倉庫に置き、販売用のストックにし
ている。その加工はジャンブ郡にある同社のコーヒー工場で行われている。

バウェン郡バナランにあるPTPN IX社のコーヒー農園には樹齢30年くらいのコーヒー木
が並んでいる。高さ150〜180センチくらいの木にみのったコーヒーの実を摘むため
に、大半が女性から成る多数の作業者が朝早くから農園に入る。監督人がその日の対象地
区に作業者の集団を連れて行き、作業者は散開して赤く熟れた実を木から摘み取る。時に
叫び声が上がるのは、その木にヘビがいたり、よく見ないまま木の枝をつかんだらそこに
蟻の大群がいたりして作業者がパニックを起こすからだ。一日の作業でだいたい50キロ
ほどの実を集めた作業者は自分が摘んだ実の重量に従って報酬をもらう。キロ当たり4百
ルピアが標準金額だ。

コーヒー摘み作業者は近隣の村々の住民で、農園会社のトラックが早朝各村へ迎えに行き、
夕方また各村に送ってくれる。送迎バスならぬ送迎トラックに揺られて、作業者はその日
得た収入を家に持ち帰る。

カンプンコピバナランでは、その作業を見学するツアーが催されている。大人5人子供3
人が乗れるオープンタイプの車が見学者をその日の作業場所に運んでくれる。昔は年間に
7百人くらいの作業者を使っていたが、昨今は4百人くらいになって、あまり人手が集ま
らなくなっているそうだ。

女性作業者のひとり50歳のルカヤさんは、自分はもうここで20年選手になっている、
と語る。だいたい一日にコーヒーの実を0.5〜1クインタル摘むそうだ。(1クインタ
ルは100キロ)


アンバラワの西にあるスマラン県ジャンブ郡のPTPN IX社コーヒー工場は1911年に稼
働を開始した。ここでは、いまだに多くの作業が昔ながらの人力で行われている。

最終工程の選別作業では、近隣の村々から集められた百人を超える女性作業者がだだっ広
い工場の床にゴザを敷いて座り、大きい竹編み籠に乾燥させたコーヒー豆をたくさん入れ
てから、籠の中身を軽く空中に放り上げる。そうやって豆と不純物を分離させるのである。

割れた豆の破片、砂、木の枝から落ちた汚れなどの不純物が付着していない、しかも大粒
の豆だけが一粒一粒、別の籠に移されていく。その作業を見学して、コーヒー豆は黄金粒
のようだと形容した業界関係者もいた。[ 続く ]